【ある晴れた日のお絵かきで】  よく晴れた日のお昼前。レミリアお嬢様が眠りについた頃。  紅魔館のベランダでは、妖精メイドたちがせっせと洗濯物を干していた。 「よいしょ……っと。これで最後ー」  そう言って、スケッチ・カラーは、運んできた洗濯物をまだ干されていない山に積み上げた。 「ふぅ。なんだか今日は多いねー」  ベランダは干している洗濯物でいっぱいで、お茶を飲むための小さなテーブルを置くスペースすらない。 「ベッドのシーツなんかもあるからね」  洗濯物を干しながら同僚の妖精が答えた。  なるほど、確かに大きな布がいくつも見える。 「でもさ、真っ白なキャンバスが広がってるみたいで、気持ちいいよね」  同僚はそう楽しそうに笑うと、残りの洗濯物を抱えていった。 「キャンバスかぁ」  スケッチの前には、特別大きなベッドシーツが広がっていた。 「うーん……」  そして、エプロンドレスの胸元に両手を突っ込む。 「真っ白なキャンバスなんて、つまんないよ」  引き抜いた両手にはたくさんのペン。 「だって、キャンバスって絵を描くものだもんね」  きゅぽきゅぽとキャップを抜いて、準備完了。 「うふふふふー。それじゃぁ早速ー。  ――彩色『色とりどりのサインペン(顔料)』!!」(※顔料インク:水で洗っても落ちません!)  小さな身体で飛び回り、両手に持ったペンを器用に使って、大きな布地いっぱいに絵を描く。 「おじょお〜さーまは〜♪ ひるは〜おーねむ〜♪ おやつできても〜♪ お茶をいれても〜♪ おーねぼうさん〜♪」  変な歌を歌いながら上機嫌のスケッチ。大きなキャンバスは、確かに気持ちがいい。  見る見るうちに、シーツの上にレミリアお嬢様の姿が浮かび上がる。 「ん……っと、完成ー!」  キュっとキャップを締めて振り返ると、 「はぁ……。あなたはこれまで使ったシーツの枚数を覚えているのかしら?」 「うあ。メイド長……」  咲夜が立っていた。 「それで私のベッドのシーツがない、と」  報告は聞いたが、レミリアにとってはさして興味のないことだった。 「はい。本来なら今夜お取替えしようと思っていたのですが……」  真面目に咲夜が続ける。  スケッチは、その咲夜に引き連れられてレミリアの私室にいた。 「それじゃあ、わたしはどこで寝ればいいのかしら?」  シーツが使えなくなったことは些細なことだが、寝心地が変わるのはいい気がしない。 「ええ、それですが……。  お嬢様には私のシーツをお使いいただいて、私はお嬢様とご一緒させていただこうと考えています」  真面目なまま咲夜が続ける。 「そう。……まぁいいわ」 「……っし!!」 「メイド長?」  グッとこぶしを握る咲夜を見て、スケッチが不思議そうな顔をする。 「いえ、なんでもありませんわ(普段ぼーっとしているのに鋭いですわね…)」 「それで、そのシーツはどうしたの? 私の絵が描いてあるんでしょう?」  あのシーツは咲夜の指示ですぐに取り込んだあと――そういえばどこに行ったのだろう? 「あれはもう使えませんので、私が保管しております」  真面目かどうかはわからないが、咲夜は抜け目がない。  いやそんなことよりも、 「使えないことなんてない!」  使えないといわれたことがスケッチには心外だった。 「シーツの肌触りは変わってないし、濡れても落ちないインクで描いたもん!」  色落ちしないなら、上で寝ても平気だ。スケッチはそう主張する。 「洗っても落ちないから、ダメなんでしょ……」  もっとも、咲夜は洗い落とすつもりはないのだが。 「ふむ……」  それを聞いて、レミリアは思案する。 「なるほど。それは悪くない……いえ、いい考えだわ」  レミリアの目が紅くきらきらと輝く。  悪い兆候だ。 「咲夜、新しいシーツはもう注文しているのかしら?」 「はい」 「いいわ。それじゃあスケッチ、新しいシーツが届いたら、  そのシーツに霊夢の絵を描きなさい」 「――へ?」 「――は?」  しばらく間を置いて、スケッチと咲夜が間抜けな声を出す。 「色落ちせずにそのまま使えるのでしょう?」 「う、うん……」  詰め寄るレミリアと引くスケッチ。 「霊夢の顔を見ながら寝るなんていいと思わない? 添い寝してる気分だわ」 「あの、お嬢様、添い寝でしたら私が――」 「咲夜は咲夜。霊夢は霊夢」 「あぅぅ……」  咲夜がヨヨヨと泣き崩れるが、レミリアは気にしない。 「いい、スケッチ、ちゃんと等身大で描くのよ? そうね、顔が少し赤くなっているといいわね。あ、服は少しはだけて――」 「えっと、えっと……」  やけに細かいレミリアの要望を慌ててメモするスケッチ。  その後、紅魔館で等身大イラスト入りのベッドシーツが流行る事になった――。