長谷川 弓音SS のバックアップの現在との差分(No.1)SS本文「これで三人目……ようやく軌道に乗って来たってとこかしら」 コン、コン コン、ココン コン、コン コン、ココン 「どちら様? ノックをする客なんて珍しいわね?」 アリスが出てくる。アリスは弓音の姿を見て呆れたような顔をする。 「ただの人間がこんなところに何の用? 全く、ここは普通の人間が軽々しく来るような場所じゃないっていうのに……」 「実は折り入って頼みがありまして――」 弓音の態度と言葉にアリスはさらに顔をしかめる。だが、その態度が気になったのか、 「じゃあ、とりあえず中に入って。立ち話も何でしょうから」 そう言い、弓音を家に招き入れた。 「お邪魔します」 弓音は礼をし、勧められるままに入っていく。対面に向かい合うように座り、紅茶を一杯飲み終えたあたりに、アリスが問う。 「それで? 私に頼みたいことって? 人形劇の公演かしら?」 「いえ……、近々そこそこの規模のブティックを開く予定なのですが、願わくばアリスさんの服も……と思いまして、頼みに来たのです」 弓音の言葉にアリスはしばし思案する。 「普通はそう言ったのは断わらして貰うんだけれど……気になったから一応聞いておくわ。なんで私の服を求めたの?」 「私が望む店は、女性が素敵な出会いを行える場所。そこにはアリスさんの作る服が合うと思ったからです。想いを込めて作られたものは、それ相応のモノを持ちますから……」 弓音の答えにアリスは微かに微笑み、 「そういうのだったらまぁいいかしら? ……後、気になったから聞いておくけど、貴方の能力は……」 アリスの問いに、弓音は悪戯に再興した子供のような無邪気な顔で「相手を納得させる能力です」と言った。 アリスは「やられたわね」とでも言いそうな顔で弓音を見据え、そのまま契約書にサインをした。 「それじゃあ、また来るわね」 「ふぅん? それが地の口調なのね。まぁいいわ。いつでもいいわよ」 弓音はアリスの家から去り、次のデザイナーのいる場所へと向かった。 死神、アイン・ニヒトの場合 弓音は人里の市場へと足を向けた。そこにいるといわれている人物に会いに行くためである。 「いらっしゃい!! 今日も新鮮な野菜があるよ! 今日のは特に大物さっ!」 当てもなく市場を散策していると、景気のいい声が聞こえてきた。そちらに足を向けると、黒いゴスロリ調のドレスを身に纏った長身の女性がいた。天狗からもらった情報によれば、彼女が捜しているアイン・ニヒトという人物で間違いないはずである。 弓音は、まだ人の密度の濃い激戦区を何とか潜り抜け、店の先頭に躍り出た。そこで、周りの客の数が減るまで待ち、そこそこの数になったところで声をかける。 「すいませんが、アイン・ニヒトさんで間違いありませんか?」 「ん? 確かに私がそうだが……、何の用だ?」 「近々ブティックを開店する予定なのですが、アインさんの服を置かせて貰えませんかと思い来ました」 「そうか……では、よろしく頼もう。詳しい話を聞こうか」 あっさりと承諾を得れたため、弓音は束の間止まっていたが、すぐに思考を切り替え、契約書を取り出した。 「詳しい話は契約書に書いてあります。他に気になる事があったらなんなりと聞いてください」 アインはしばらく契約書を読んでいたが、ふと顔をあげて、 「私の専門はゴシックロリータだが、問題はないのか? 売っている私が言うのも何だが、この幻想郷ではまだそれほど知名度がなく、それによる気恥かしさで買うものが少ないようだが……」 「大丈夫ですよ。何も買うのは人間だけだという訳でもありません。それに、そういった人の為に通販サービスを予定しています」 「通販サービス?」 「はい。すでに一部の天狗や、とある鳩、ペリカンの妖怪の事業している郵送業の者と契約してあります。送り先を指定してもらえれば、そこにこちらから送るというサービスですよ」 「なるほど……確かにそれならば、買っているところを見られるという気恥かしさは出ないという訳か」 「そういう訳です。他に何かありますか?」 「いや、特にはないな。開業を楽しみにしておこう」 「それでは」 アインに別れの言葉を告げ、弓音は次の場所へと向かう。恐らく今日では次が最後の人になるだろう。 流浪の魔法使い、クァイア・リンドヴルムの場合 「たしか、ここだと言ってたはずだけど……」 弓音は無名の丘の中ほどで辺りを見渡す。 本日最後に尋ねるデザイナーはクァイア・リンドヴルム。往く当てもなく、幻想郷中をさまよい歩き、気が向いたときに、そこらにあるものを材料に服を作り、近くにいる妖精などに渡していくと語られている、実際の処の正体が全く不明な人物である。流浪の魔法使いと言う忌名を持ってはいるが、本当に魔法使いかどうかも定かではない。極めて謎に包まれている人物である。 「そんな人物が、ここらにいたっていう話を聞いたから来てみたわけだけど……外れかしら?」 「ん? ……先客か、邪魔をしたな」 そう思い、弓音が弓音をついたとき、後ろから声が聞こえた。 振り返ると、そこには灰色のローブを身に纏った一人の少女が立っていた。 「もしかして、クァイア・リンドヴルムさんですか?」 弓音の言葉にクァイアは眉をひそめ、 「私を知っているのか……何者だ?」 「申し遅れました。私は長谷川弓音と言います。それで、折り入って頼みたいことがあるのですが」 「聞いてはやるが、その取り繕った喋り方はやめろ。虫唾が走る」 クァイアは耐えられんといった顔でそういう。故に、弓音も語り用の口調をやめる。 「じゃあ単刀直入に言うわね。近々ブティックを開店する予定なのだけど、貴方の服を扱いたいから、期日の無いただ作りたいと思って作った物だけで構わないから納品してもらうという契約を結んでくれない?」 弓音の直球発言にクァイアは面食らう。 「随分と一方的だな。そんなのを受けると思っているのか?」 「いえ、貴方は気に入ったから無理にでも受けてもらうわ」 少女説得(と言う名の強要)中 「わ、わかった。その契約を受けよう(なんなんだこれは? 会話の途中から頷いて当然――むしろ頷かないとおかしいみたいに感じられたぞ?)」 クァイアが疲れた顔で頷く。弓音はクァイアにパンフレットを渡し、 「とりあえず、建設予定地はここになっていますから、ここに持ってくるか、その都度郵送員に連絡してくれれば――」 「いや、いい。そのまま、お前についていくとしよう。どうせ旅も服飾もただの暇潰しだったからな。それよりもお前の事が気になる。先ほど行ったことも含めてな」 「じゃあよろしくお願いするわね」 弓音はクァイアとともに帰路にたった。 後日からも様々なデザイナーを説得し、建築も進めて一ヵ月後、長谷川弓音の夢たる店「Reverie of Alice レヴァリエ・オブ・アリス(幻想の少女)」が開かれ、様々な出来事を起こしていくのは、また別のお話である。 End. コメント欄 |