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アヤネ_SS の変更点


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■[[僕○第62回]]
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「か〜ってうれし〜いは〜ないちも〜んめ〜」
「まけ〜てくやし〜いは〜ないちも〜んめ〜」
 人間の里の一角にて幾人ばかりの童たちが集い、遊戯に更けている。今やっているのは花一匁のようだ。それ自体はとても微笑ましいものだった。
「あ〜のこ〜がほ〜しい〜」
「あ〜のこ〜はま〜からん」
「こ〜のこ〜がほ〜しい〜」
「こ〜のこ〜はま〜からん」
「「そ〜だんし〜ましょ。そ〜しましょ」」
 ただ、その光景を遠巻きから見ている影が一つあった。紫の着物を着こみ、手に丸々と太った巾着袋を持った小さき童がじっと童たちの遊戯を見続けていた。
「ん? あいつさっきからこっち見てね?」
 遊戯に更ける童の中で一際大きな男児が遠巻きに見続けていた小さき童に気付き周りに声をかける。他の童たちはその言葉でようやく気付き、仲間内でどうするかを話し合い始める。
 ほんの数回で決が付き、先の男児が小さき童に近づき話しかける。
「お前さっきからこっち見てたけど……一緒に遊びたいのか?」
「えっ?」
 突然声を掛けられた小さき童は少し驚いたものの、すぐに言葉の意味を理解して頷く。
「うん。あたしも遊びたい。でもいいのか?」
「別に一人ぐらい増えても変わらねぇよ。んで? 名前は何だ? 俺は文紀。ここの中で一番年食ってるから、まぁ代表みたいなもんだな」
 文紀はそう言って手を差しだす。
「あたしはアヤネ。こちらこそよろしく」
 その手に応えアヤネが握り返そうとした――その時。
「文紀! その手に触れるな!!」
 大気を震わす怒号が響き渡る。文紀を含む童たちは聞き覚えのあるその声に反射的に身を震わせる。例外たるアヤネはその現れた存在に嫌そうな声を出す。
「またあたしの遊びの邪魔をするのか慧音! 時に今回はあたしから入ったわけでなく誘われてだぞっ! 慧音は私に遊ぶなと言うのかっ!」
「アヤネ。お前には悪いが、里の者たちに被害が出るとわかってしまった時点で、私はお前の行動を認めるわけにはいかんのだ」
「け、慧音先生?」
 突然のことで茫然としていた童たちの中から代表として文紀が慧音に声をかける。ただ、何を尋ねればわからなかった為に、ただ声をかけるのみだけだったが、それだけで慧音は察し、答える。
「アヤネ――これは疫病神の様なものだ。近づいたり、触れたりすれば幸が奪われ、不運になる。ここは私は対処するからお前たちは早く家に帰れ」
「は、はい!」
 文紀含む童たちは、慌てた足取りで各々が家に走り帰っていく。その様子を見届け、慧音は改めてアヤネと対峙する。
「先ほどから黙って聞いていれば何て言い草だ慧音っ! あたしは座敷童だぞっ! それなのに疫病神なんて言うのは些か以上に酷くないか!?」
「私もお前が座敷童としてあってくれるのならこのように追いまわしたりはしない。だが、お前は家から家へと移り住む。座敷童が離れた家は三世没落するという事を知らぬわけであるまい」
 アヤネは一瞬押し黙る。下を向き、唇を噛み締め、拳を握りしめ、それでも堪え切れずに言の葉を吐く。
「あたしだって遊びたかったのっ! 座敷童だっていうだけの理由で、あたしは家に押し込められ、この力のせいで誰も近づかない! 触れ合わない! そんなのは嫌っ! あたしだって遊びたいんだ! 人間の都合だけで縛られるのはもうごめんだッ!!」
「お前の気持ちはわからないわけではない。私も含め、この里は人間の為を基本としているからな。そのせいで犠牲となる妖怪は少なくはない。それに対しては何とかしたいと思う。
だが、お前自身の力は危険極まる。それを意図して行うとあれば、私はそれを止めなくてはならない」
アヤネ自身の力。それは幸の移動。座敷童としての能力の発展なのであろう。アヤネの周囲数メートル圏内にいる者は何かしらの幸を得る。ただし、更に近く――アヤネの周囲50cm圏内。更に接触をしてしまった者は、その者の幸がアヤネに奪われる。アヤネの加護の得られる数メートル圏内では変化はないが、それより離れると途端に不幸となる。これこそアヤネが疫病神と揶揄される所以。
「だったら……あたしと勝負だ慧音! 慧音が勝てばあたしも大人しくしてやる!」
「……勝負。弾幕ごっこか? それにアヤネ。お前が勝った時の条件は何だ?」
「そんなのあたしはしない! やるのはどろけいだ! あたしが勝ったら……? そうだな……その時は慧音にはあたしの言う事を一つ聞いてもらおうか!」
「……ふむ」
 アヤネの申し出に慧音はしばし思案する。だが、決着を求めたアヤネに対し慧音は頷いた。
「わかった。その勝負を受けよう」
「よしっ! じゃああたしが先に逃げるから、慧音は100秒後に追うんだぞ!」
「わかっている。不正などはしない」
 慧音の答えに頷き、アヤネは軽い身のこなしで里を駆け抜け、その姿を消した。
 ……そして、その日慧音はアヤネを見つけだすことは出来なかった。
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後日談 慧音と妹紅の会話
「……なぁ慧音? 1対1のけいどろって泥棒はただ逃げるだけだから、よほどのことがない限り捕まらないんじゃ……」
「いうな妹紅。私だってわかっている。あそこで勝負を受けたのが失策だった」
「でもまぁ、まだ里にちょくちょく現れては追いかけてるんだって? 実はそいつ、ただ慧音と遊びたいだけなのかもな」
「……そうなのかもな。だったら、その役を妹紅にも頼んでみるとするかな。ずっと同じ相手と言うのも味気ないだろう」
「私についてこれるといいがな。ま、ならついでに輝夜や肝試しの奴らも巻き込むとするか。要するにそいつの能力を気にしない奴らだったらいいんだろ?」
「ふふふ、そうだな。それだけいればアヤネも遊び相手に困ることもなくなるか。……だが、アヤネも里の者だ。徒に里から追い出さんようにしないとな」
「ま、そこら辺は慧音に任せた。私は早速輝夜や他にちょっかいを出してくるとするか」
「ああ、頼んだ妹紅。さて、では私も動くとするか」
 その後、人里全域を巻き込んだ超超規模ではた迷惑な遊戯が起こり、その後始末に追われることになる事を、まだ慧音は知らない。
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