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■[[僕○第93回]]
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 紅魔館には悪魔がいる。それはとても陳腐な言葉。何故ならそこが吸血鬼の姉妹の館だと知らぬ者の方が珍しいほどであるからだ。
 だが……心得違いしてはならない。もう一度言う。紅魔館には悪魔がいる。知らぬうちにその悪魔に近づけば、決して無事帰れる事はないだろう。また、彼女を魅入ってはならない。直ぐに逃げねばならない。もし、一瞬でも立ち止り息を呑めば、逃げることも叶わなくなるだろう。
 最後にもう一度だけ言う。紅魔館には……悪魔がいる。
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 俺は人里に住むごくごく普通の一般人だ。空は飛べないし弾幕も張れないし、罷り間違っても妖怪を倒すなんてできっこない。妖精だって怖いぐらいだ……いや、毛玉も怖いな。
 そんな俺が今向かってるのが紅魔館。……突っ込みはいらん。俺だって好きでこんな死亡フラグ立てまくりに行ってるわけじゃない。これには深いわけがある。
 というのも至極簡単なわけなのだが、要するに俺は借金をしこたまこさえたが、返す当ても当てずに延延放置してたので、遂に相手方の堪忍袋の緒が切れちまったってぇわけだ。
 んでもって、今俺がやらされてるのは一種の度胸試しと運試しみたいなもんで、紅魔館に行ってなんか適当にやらかして生きて帰って来れれば、借金はチャラ。しかも同時に職も与えてくれる。失敗すれば即終わり。単純明快なだけで泣けてくるね。
 さて、だがこれでも俺はそこそこ運がいい方だ。現にこうやって霧の湖を越えて紅魔館の門が見える今になってもまだ妖精妖怪の類に出くわしていない……いや、むしろ運が悪いのか? 紅魔館に妖怪相手だと本気で無残に飛び散りそうな気がする。
 まぁ、門番のえぇと……紅……なんとかっていう妖怪がいたからそこで止められるだろう。確かその妖怪は殺すまではしないと聞く。おぉっ! そう考えると運がいいような気もしてきたぞ!
【私用によりしばらくこの場を離れています。生死を問わない者はご自由にお通りください。なお、これらは全てお嬢様の認可したものです。紅美鈴】
 ……なんてこった。門番――紅美鈴がいないし、更には侵入まで出来る状況じゃねえか。ある意味運がいいとも言えなくはないが、これは絶対に不幸だろう。断言できる。
 とは言え、ここで引き返すわけにもいかない。はぁ、しかたないなぁ。
「〜〜♪ ♪〜〜♪♪〜〜♪〜」
 ん? どこからか歌声が聞こえてくるな。夜雀が歌うとは聞いた事があるが、夜雀のテリトリーはここらではなかったはず。……にしても、いい歌声だな。もっと聞きたくなってくる。歌声を糧にする妖怪に引き込まれるのは、こう言った感じなのではないかと思いつつも、身体はそちら側へと向かって歩いて行っていた。
「♪♪〜〜♪ ♪〜♪♪〜〜♪〜」
 しばらく歌声に惹かれ歩き続け、付きあたりの角を曲がるとそこは紅と香りの世界だった。辺り一面に広がる様々な紅い草花。その中心で一人の女性が歌を歌っていた。彼女の周りには、紅魔館のメイドと思わしき妖精達が、安らかに眠っている。成程、つまりはこの歌は子守歌だったのか。確かに穏やかなこの歌を聞けば、安らかな気持ちで眠りにつけるだろう。
「♪♪〜〜あら? お客様ですか?」
 聞き惚れて見続けていたせいか、彼女がこちらに気付いてしまった。しかも、彼女の問いには応えられない。俺は外聞もなく慌てふためてしまう。
「そうですか。何が目的で来たのかは知りませんが、ここは貴方の様な普通の人が来るような場所ではありませんよ」
 彼女は侵入者――いや、迷い込んだと思われてるかもしれないが――である俺に対してそう言った。本音を言えば、今すぐ逃げかえりたいがそう言う訳にもいかない。それよりも、俺は彼女が気になった。こんな吸血鬼の――噂では、ある種もっと危険な悪魔がいると言われている――館に住まう、心優しい笑みを浮かべる彼女の事が。だから聞いてしまった。
「私ですか? 私はCO悪魔。ここの図書館の司書見習いをさせていただいています。ですが、蔵書の数が多すぎてまだまだうまくいかない事が多いのです。後は良く歌を歌ったりしますが、あくまで下手の横好き。人にお聞かせするものではありませんよ」
 小悪魔? そう言えば、紅魔館の図書館の司書は小悪魔だったと聞く。成程、そう言われてみれば、小さな羽根が見えるし、服装も人伝ながらに聞いた事がある形をしている。それにしても、あれほどの歌声で下手の横好きと来たか。あれならば――んっ? 頭が……重い?
「どうかなさいましたか? 顔色は悪くないようですけど」
 彼女が心配そうな顔でこちらに近付いてくる。それと同時に、頭の痛みも強くなる。軽い嘔吐感もする。また、頭の痛みとは別に、何かが俺に訴えかけてくる。そう、いつもピンチになる前に発揮する俺の勘が何かを告げている。
「ほ、本当に大丈夫ですか!? 救護室にお連れしましょうか!?」
 俺の突然の変化に驚いたのだろう。俺は彼女に対して、大丈夫だと腕を上げようとし――上がらなかった。力が入らない。意識はあるが、身体が動かない。その瞬間俺は思い至った。これが何であるかを。昔医者になりたいと言ってた知人に聞いた覚えがある。これは――一酸化炭素中毒だ。そして、恐らく原因は彼女。彼女はそう言った能力なのであろう。そして彼女自身が気付いていない。
 そうだ。いま思えば、彼女の周囲で寝ていた妖精達も?おかしかった。アレは安らかに寝ていたのでなく、純粋に昏倒していただけだったのだ。
 そして気付く。噂で言われていた悪魔とは彼女の事だったのだ。確かに知らぬうちに長時間いれば最早逃げることも叶わない。何故なら、彼女が介抱しようとするから。
 あぁ……少しずつ意識が途切れる。恐らくもう目覚める事はないだろう。仮に目覚めたとしても、ここは紅魔館。吸血鬼の餌になるのが落ちだ。ならばここで死んだ方がまだましなのだろう。俺を心配してくれる人に看取られて死ぬのだから。俺は静かに目を閉じた。
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 薄れ切った意識の中で、俺の勘が何かを告げた。それは彼女の名前。確か小悪魔と言ったが、ふと思う。発音が気になったのだ。アレはCO悪魔。一酸化炭素はCO。つまり……俺は最後の力で目を開けた。そこには、俺が悟ったのを知ったのか、とてもいい笑顔の彼女がいた。
 あぁ……こりゃ本物の悪魔だわ。
 俺は意識を手放した。
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