まもなく日が沈もうとする夕暮れ。  妖怪の山の麓にある森の中。  一人の白狼天狗の少女が、落ち着かない様子でたたずんでいた。  少女はそわそわと辺りを見回すが、すぐにため息をついてうつむく。 「姉さま……」  少女は指先で自分の唇に軽く触れた。 「来てくださるかしら……」  数日前、山を訪れたあの人に唇を奪われてから、すっかりおかしくなってしまった。あの人のことが片時も頭から離れない。  まるで妖術をかけられたかのようだった。  もしかすると、本当に妖術なのかもしれない。あの人は妖狐だ。そのくらいはしてもおかしくない。 「でも……姉さまは私を選んでくれた」  たとえ妖術であっても、その事実は変わらない。少女にとっては、それだけで十分だった。  日が沈み、赤い空に青が混ざりだす。  ――日が暮れる頃、また逢いましょう。  あの人はそう言った。だからきっと来てくれる。  膨れ上がる不安を押し殺して、少女は待った。自分からここを離れるつもりはない。  ふと、風の音が変わった。 「こんばんは」  少女の後ろから声がかかる。慌てて少女は振り向いた。  艶やかや金色の長い髪。その髪と同じ色をした二つの尻尾。優しい笑顔を浮かべた九重彩華が立っていた。 「姉さま……っ!」  少女は彩華の胸元に飛び込む。 「ごめんなさい、遅くなってしまって」 「いえそんな、私は姉さまに来てくださっただけで、」 「これはそのお詫び」 「――!?」  少女の言葉をさえぎって、その口を彩華の唇がふさぐ。  突然のことに驚く少女。しかし、間近に見る彩華の目はとても優しかった。安心して少女は目を閉じる。彩華の口から送り込まれる吐息。それが鼻腔を抜けると、頭の奥にしびれるような心地よさが生まれた。  しばらくは唇を合わせるだけのキス。そして、十分に唇の柔らかさを楽しんだ彩華は、すっと舌を少女の口の中に差し入れた。少女の身体がかすかに震える。しかし抵抗はない。むしろ、自分から求めるように身体を寄せてきた。やがて二人の唇の間から水音がこぼれだす。 “あ……”  少女は、腰に回された彩華の右手が、ゆっくりと降りていくのに気づいた。その手が目指す先は――。 “だめ……姉さま……”  咄嗟に阻もうとするが、彩華の手の方が早い。 「ひぅっ……!」 「あら?」  そこにある淡い茂みは、すでに滴り落ちるほどに濡れていた。  引き抜いた彩華の手からも愛液が零れ落ちる。 「キスだけでこんなに」 「……っ!」  少女は恥ずかしさのあまり顔を伏せる。淫らな娘だと思われたら嫌われてしまう――。  不安に震える少女を優しく抱き寄せると、彩華は濡れた手を口元に運んだ。 「んっ、おいし」 「え……?」  少女が声に顔を上げると、彩華が手に着いた愛液を舐め取っていた。 「姉さま……?」 「ふふ、可愛い娘」 「ぁ……」  柔らかな彩華の微笑み。少女の不安が解ける。 「あなたも、味わってみます?」 「え……んうっ」  問われた言葉に返す間もなく、再び少女の口がふさがれた。口の中に愛液が流し込まれる。追うように入ってきた彩華の舌が、少女の舌に彼女自身の愛液を絡めていく。やがて彩華は少女の舌を離れ、歯の裏をなぞり、上顎を舐め上げ、そしてまた舌を絡める。  少女の口腔は、彼女の愛液と二人の唾液が混ざったものであふれ、口の端から零れ落ちた。 “もったいない……”  ぼうっとする頭で少女はそんなことを思う。そして、これ以上零さないように、少女は口の中の液体を嚥下した。こくんと喉が鳴る。 「本当に、可愛い娘」  彩華が少女の頭をなでる。嬉しそうに少女は目を細めた。 「脱がせて、もらえますか?」 「えっと……」 「帯をといてください」 「あ……はい」  少女が彩華の腰帯をほどく。着衣がするりと抜け落ち、彩華の裸体が月明りにさらされた。豊かな胸のふくらみ。流れるような曲線で形作られる四肢。薄暗がり中で金色に輝く髪と尾。 「姉さま、綺麗……」 「ありがとうございます。では、貴女も」 「はい……」  彩華の手で少女の肌があらわになっていく。  やがて、それまで着ていた服の上に、一糸まとわぬ姿の少女が横たえられた。小ぶりの胸に、やや幼さを残す身体つき。まだ誰も触れた事のない、清純な身体。 「恥ずかしいです、姉さま……」  彩華の視線を感じて、少女が身体を手で隠す。 「ダメですよ、隠しては」 「でも……」 「そのままでは、続きができませんよ?」 「ぅぅ……」  ここまで来て終わりなど、我慢できるわけがなかった。  意を決して、少女は両手を開き、足をわずかに広げる。 「あの、姉さま……」 「綺麗ですよ、あなたも」 「うれしい……です」 「食べてしまいたいくらいです」  彩華の笑みを、陶然と見つめる少女。 「あの、姉さま……」 「はい」 「その……どうぞ、お召し上がりください」  ますます身体を紅く染めながら、少女はそう告げた。 「ふふふ……ええ、いただきますね」  彩華が少女の上に覆いかぶさる。  夜はまだ始まったばかり。  今夜は、長い夜になりそうだった。