ラジオショックのまとめ
博麗 言璃SS をテンプレートにして作成
開始行:
#contents
* SS本文 [#w773baa0]
-このSSは、第13回僕○投稿キャラ「博麗言璃」をメインにしたS...
-XX年後の幻想郷を書いたSSで、メインは霊夢です。
-SS中にはキャラ名は出てきてませんが、このSSに登場させた霊...
~
----
~
博霊の巫女が代替わりした。
その報せはあっという間に幻想郷中に知れ渡る。
~
このことは、妖怪にとって2つのことを意味していた。
一つは、今後の弾幕勝負を挑む相手が変わったという事。
もう一つは、博麗霊夢を殺してはならない理由が無くなった...
~
~
閃光。
そして轟音。
霊撃が撒き散らした衝撃の中心には、博麗霊夢がいた。
「まったく、今日はずいぶんと多いじゃないの」
いまの一撃でかなりの数を吹き飛ばした。しかし、霊夢を囲...
里から神社に続く道で襲撃を受けたのが数刻前。戦っている...
「私の勘も鈍ったかな」
出かけるときに娘に止められた。今日はおとなしくしている...
しかし、最近口うるさくなった娘の忠告を笑って流し、軽い...
もちろん、明るいうちに戻るつもりでいた。
だが、辺りはすでに薄暗く、間もなく太陽は完全に沈む。そ...
――夜は怖い。
これまで里の人間に何度もそう忠告してきた。
しかし、自分で感じるのは初めてだった。
~
~
霊撃のストックはまだある。どれほどの数の妖怪がいるかわ...
ところが、先ほどから妖怪達の攻撃は急に弱まっていた。様...
霊夢の霊力は全盛期からまだ衰えていない。だが、体力はそ...
長期戦は不利。だが、動き回って体力を消耗するのもまずい。
睨み合いが続く。
こんな時、昔の霊夢なら自分から仕掛けに行っただろう。待...
「昔、か――」
ずっと昔、霊夢は母から博麗の巫女を引き継いだ。もう20年...
その数日後、母は霊夢の前から姿を消した。
今と同じくらいの季節だった。
~
“これから妖怪退治に出かけるわ”
確か、母はそんなことを言っていた。それに対して、妖怪退...
“これが最後よ。これは私が片付けないといけないの”
優しい笑顔だった。そして、有無を言わせない笑顔だった。
“きっと長くなるわ。だから霊夢、これからは一人でがんばるの...
そういって出かけた母は、結局帰ってはこなかった。
~
「母さんも同じだったのね」
思い返せば、霊夢は母から先々代の事を聞いたことがない。...
妖怪の目的は分からない。復讐のためかもしれないし、名を...
いずれにしろ、役目を終えた巫女は妖怪に狙われ、そして命...
だからといって、いまここで妖怪達に殺されてやるつもりは...
数こそ多いが、周りの妖怪にあまり強いものはいないようだ...
これならまだ突破できる。
霊夢はそう思った。
より強い力を持つ妖怪が来る前なら、突破できる。
~
~
~
太陽が地平に沈んだ。
そして、ここ紅魔館では夜になってからが、1日の始まりとな...
館の主である吸血鬼、レミリア・スカーレットが目を覚ます...
「おはようございます、お嬢様」
傍らに控えていたメイド長が、目を覚ましたレミリアに始ま...
「おはよう」
レミリアはベッドの上に身体を起こすと、窓の外に視線を向...
外にあるものは闇。空には月が見える。
「いや、少し遅かったようね」
「はい」
律儀に返すメイド長に苦笑しつつ、着替えを済ませる。今日...
「まだ生きてるかしら?」
レミリアは窓を開けながら尋ねた。自分が着く前に死んでし...
「10分ほど前の知らせでは、まだ生きていました」
「そう」
外を見上げる。満月ではないのが残念だった。吸血鬼の戦い...
「行ってくる。きっと長くなるから、後を頼むわ。美鈴」
「はい」
深く頭を下げる赤毛のメイド長をあとに残し、レミリアは夜...
~
~
~
マヨヒガのスキマ妖怪も動いた。
「藍! ら〜ん!」
「お呼びですか、紫様?」
呼び出しに応じて式が姿を見せる。
「これから出かけるわ」
要件は簡潔。紫がいないときに藍がやるべき事は、全て式に...
「わかりました。どちらに行かれるのですか?」
はぐらかされることも多いが、いちおうは聞いておく。
「ちょっと神社にね」
不気味な笑顔を浮かべて紫が答えた。ゾッとする笑顔だ。こ...
「神社……ですか。そういえば巫女の代替わりがあったそうです...
紫の笑顔におびえつつも藍が言葉を返す。
「ええ。でも、新しい巫女は後回し。用があるのは元巫女の方」
紫の笑みがさらに深まった。藍の妖獣としての本能が、これ...
「わかりました。お気をつけて。あとはお任せください」
どんな状態でも定型文句をスムーズに言えるのは、式の便利...
「任せたわ。じゃあね」
軽く手を振り、紫の姿がスキマに消えた。
~
~
~
あれからどのくらい経ったのか。どのくらい進んだのか。霊...
ずいぶん進んだ気もするが、方角が合っているのか分からな...
今は、息を潜めながら空が見える場所を探していた。月と星...
やがて、木々の切れ目から、月明かりが差し込んでいる場所...
攻撃を警戒しつつ近寄る。
そして空を見上げた。
見えたのは、わずかに欠けた月。
「紅い、月――」
空に浮かぶ月の色は、血に濡れたような紅。霊夢の背に嫌な...
そして、紅い月を背に蝙蝠の羽を広げて浮かぶ、吸血鬼と目...
~
“こんなに月も紅いから本気で殺すわよ”
~
あの時彼女はそう言った。その後は親しい仲になったが、彼...
「レミリア……」
霊夢の声が震えていたのは疲労のせいだけではない。
「こんばんは、霊夢。ずいぶん探したわ」
紅い月よりもさらに紅い目が笑みの形を作る。
霊夢は今でも、弾幕勝負ならレミリアにもそうそう負けはし...
だが、単純な殺し合いになったとき、夜の吸血鬼に人間が勝...
「紅茶が飲みたいわ。霊夢、あなたの紅茶が」
そういいながら、レミリアは魔力を編み上げる。手に現れた...
「あなたの運命を、少し見させてもらったわ」
運命を操るというレミリアの能力。それを防ぐ手段などある...
「でも、どうやら私が操る必要もなさそう。私がここに来て、...
レミリアは紅く染まった月を見上げる。漂う血の臭いは幻覚...
「さぁ、霊夢。こんなに月も紅いのに――」
~
「楽しい夜を邪魔しに来たわ」
声とともに月が裂けた。
~
~
「よいしょっと。はい、こんばんは」
裂けた月から現れたのは八雲紫。
「……なにしに来たのよ」
霊夢は苦りきった様子で尋ねた。
「邪魔しに来たの。邪魔者を片付けるために」
紫は笑顔を浮かべる。
嫌なときに現れる奴――それが紫に対する霊夢の認識だった。...
「この状況でまだ戦う意思があるのね。さすがは博麗の巫女だ...
紫のからかうような言い方が気に障る。
「もう、巫女じゃないわ」
強気に言う霊夢を見て、紫は嬉しそうな顔をした。
「ええ、そうその通り。だからこの状況がある。でも――もうそ...
役割を終えた巫女が戦うのはおかしいわ」
紫がスキマから傘を取り出し、開く。
~
それが合図となった。
~
周囲を囲む妖怪から霊夢に向かって一斉に攻撃が放たれる。
レミリアも、そして紫も動いた。
~
――神槍『スピア・ザ・グングニル』
――境符『四重結界』
~
レミリアが巨大な槍を振るい、飛来する弾幕の大半を薙ぎ払...
残りの弾も、紫の結界が阻む。
霊夢に届く攻撃はただの1つもない。
~
「「「え――?」」」
三人の口から同時に間抜けな声が漏れる。
~
次の行動は紫が速かった。
「私は上空、貴女は地上」
「スキマの指示は受けないわ」
文句を言いつつも、レミリアは霊夢の前に降り立った。
「レミリア……?」
「紅茶が飲みたいわ、霊夢」
「っ……ケーキは、ないわよ」
「辛くなければ何でもいい」
「……おせんべいで、いい?」
「ええ」
それだけ交わして、レミリアは繁みの中に飛び込んだ。紅い...
「さあ、かかってこい。レミリア・スカーレットの手にかかっ...
紅い凶暴な光が闇を斬り裂いて奔る。
~
「まるで悪役の台詞ねぇ」
上空では、紫がスキマや結界やよくわからないさまざまなも...
「私も何か台詞を考えておくべきだったかしら」
紫はゆっくりと漂う。そこは何も存在できない空間。弾幕も...
「今日は機嫌が良いわ。だから……そうね、私の所までたどり着...
紫の顔に笑顔が浮かぶ。ゾッとする笑顔だった。
~
~
「……っ」
霊夢はうつむいたまま木に背を預けた。
やっぱり自分の勘は鈍ってしまったようだ。
あの二人を敵だと思うなんて、どうかしている。
「……ふふ……っ」
本当にどうかしている。
自分もずいぶん歳を取ったものだ。
こんなに涙もろくなるなんて――。
~
~
~
数刻後。
森は荒野となっていた。
生きているのは3人だけ。
「やりすぎよ……」
「そうかしら?」
「そうみたいよ」
霊夢はあきれるように言い、紫は首をかしげてとぼけ、レミ...
「まったく、少しは加減しなさい。見つかったらなんて言えば...
霊夢は頭を抱える。どう説明したら穏便に済ませられるだろ...
だが、どうやら間に合わなかったようだ。
神社がある方向から、厄介な相手が飛んでくる。
「そこの人、あなたたちが犯人ね!」
いきなり決め付ける紅白の巫女。もっとも、犯人というのは...
「森を吹き飛ばしたのはあっち」
「空間ごと削り取ったのはそいつ」
紫とレミリアが擦り付け合いを始める。
「え、紫さんにレミリアさん!? それに……ちょっと母さん、...
「早く帰らないと娘が心配するかと思って」
「その娘ならここにいます!
それで? どうして森がなくなったの?」
小さな巫女が霊夢に詰め寄る。
「えっと、妖怪退治?」
「妖怪退治ね」
「ええ、妖怪退治よ」
視線をそらして言う霊夢に、レミリアと紫も同意する。
しかし、周囲の様子はどう見てもただの妖怪退治ではない。...
「はぁ……まあいいわ。事情は後で聞きます。ひとまず神社に帰...
「そうね、さすがにちょっと疲れたわ」
娘に手を引かれる霊夢に、レミリアと紫も続く。
「霊夢、紅茶をよろしく」
「私はお酒がいいわね」
「疲れたって言ったでしょう……」
遠慮のない友人達だった。
~
~
~
レミリアと紫は神社の縁側に並んで座り、それぞれ紅茶と酒...
「貴女はもう、人間には関わらないと思っていたわ」
空になった自分のコップに酒を注ぎながら、紫はレミリアに...
「……そんなことはない」
かつてレミリアに仕えていた十六夜咲夜は、今はもういない...
咲夜は、病を患っていることを周囲に気づかせないようにし...
だから咲夜が倒れた時には、もうすでに手の施しようがなか...
それからわずか1ヶ月。咲夜はこの世を去った。
あの時、レミリアは初めて、人間の命の脆さを知った。人間...
咲夜は最期に、それを教えてくれたのだ。
「スカーレットには、後悔があってはいけないのよ」
レミリアは手の中のカップを口に運ぶ。
口を潤す紅茶は、まだ暖かい。
「ようやく人の死を受け入れた?」
「いや、あんな後悔は、もう二度とあってはならないってこと...
空になったカップを見ながら言うレミリアの口調は強い。受...
「そう、ね」
何度も同じ後悔を繰り返してばかりいる紫は、それだけ言っ...
~
~
~
会話も途切れ静かになったところに、這い出るように霊夢が...
「はぁ〜、やっと開放されたわ。まったくあの子は親を何だと...
空いてるコップを手に取ると紫に向ける。注げということだ...
「親に似ず、しっかりした子ね」
霊夢に酒を注ぎながら紫がひどいことを言う。
「霊夢がずぼらなだけよ」
それに追い討ちをかけるレミリア。
友人達が娘と仲がいいのは良いことだが、どうにも彼女達は...
だが助けてもらった手前、素面では文句を言いづらい。酒が...
「いいけどね……。
ところでレミリア。あんた、私の運命を見たとか言ってたわ...
「言ったかしら?」
「言ったわ。いったい何を見たの?」
未来のことをすぐに気にするのは、実に人間らしい。レミリ...
「大したことじゃないわ。来年の春、またいつも通りのことが...
「いつも通り?」
「そう。私達が集まって、霊夢が調子に乗りすぎて、それでい...
今年もそうだったし、去年もそうだった。
「うぇ、私またあの子に怒られるの……」
げんなりした様子で霊夢は酒を口に運んだ。
「嫌なら母親らしい態度を取ったら?」
このところレミリアが神社に来ると、いつも霊夢は叱られて...
「そんな事いわれても、“母親らしい”なんてわからないわ。
いいのよ、あの子ももう一人前――」
「母さん!」
霊夢の言葉をさえぎって、後ろから大声が上がった。寝室に...
「きついとか疲れたとか言っておいて、どうしてお酒を飲んで...
「なに言ってるのよ。疲れたから飲んでるの」
「ダメです! 今日は早く寝てください!
もう、紫さんもレミリアさんも、あまり母さんを甘やかさな...
「ここにいると、親と子の境界がわからなくなるわねぇ」
娘から逃げるようにして酒を飲む霊夢の姿は、とても親のも...
「ちょっと紫! アンタ変なことしてないでしょうね!?」
「してないわよ?」
「ほら、母さん! コップを放しなさい!」
「嫌ー!」
「諦めて寝たら? 霊夢」
「だったらあんたも寝なさいよ!」
「吸血鬼に夜寝ろだなんて、非常識ね」
「あんたは昼も出歩いてるでしょーが!」
「もう母さん! あんまり騒ぐと近所迷惑です!」
「近所なんてないわ!」
「ないわね」
「遠くても近所というのかしら」
「う……」
いっせいに指摘されてひるむと、霊夢は勝ち誇った顔をする。
「だから、もーちょっと飲むわね〜」
「だ、だめです! 母さんの“ちょっと”はちょっとじゃないん...
今夜は、いつもより少しにぎやかな夜だった。
~
* コメント欄 [#sf104dbf]
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-このSSは、第13回僕○投稿キャラ「博麗言璃」をメインにしたS...
-XX年後の幻想郷を書いたSSで、メインは霊夢です。
-SS中にはキャラ名は出てきてませんが、このSSに登場させた霊...
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博霊の巫女が代替わりした。
その報せはあっという間に幻想郷中に知れ渡る。
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このことは、妖怪にとって2つのことを意味していた。
一つは、今後の弾幕勝負を挑む相手が変わったという事。
もう一つは、博麗霊夢を殺してはならない理由が無くなった...
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閃光。
そして轟音。
霊撃が撒き散らした衝撃の中心には、博麗霊夢がいた。
「まったく、今日はずいぶんと多いじゃないの」
いまの一撃でかなりの数を吹き飛ばした。しかし、霊夢を囲...
里から神社に続く道で襲撃を受けたのが数刻前。戦っている...
「私の勘も鈍ったかな」
出かけるときに娘に止められた。今日はおとなしくしている...
しかし、最近口うるさくなった娘の忠告を笑って流し、軽い...
もちろん、明るいうちに戻るつもりでいた。
だが、辺りはすでに薄暗く、間もなく太陽は完全に沈む。そ...
――夜は怖い。
これまで里の人間に何度もそう忠告してきた。
しかし、自分で感じるのは初めてだった。
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霊撃のストックはまだある。どれほどの数の妖怪がいるかわ...
ところが、先ほどから妖怪達の攻撃は急に弱まっていた。様...
霊夢の霊力は全盛期からまだ衰えていない。だが、体力はそ...
長期戦は不利。だが、動き回って体力を消耗するのもまずい。
睨み合いが続く。
こんな時、昔の霊夢なら自分から仕掛けに行っただろう。待...
「昔、か――」
ずっと昔、霊夢は母から博麗の巫女を引き継いだ。もう20年...
その数日後、母は霊夢の前から姿を消した。
今と同じくらいの季節だった。
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“これから妖怪退治に出かけるわ”
確か、母はそんなことを言っていた。それに対して、妖怪退...
“これが最後よ。これは私が片付けないといけないの”
優しい笑顔だった。そして、有無を言わせない笑顔だった。
“きっと長くなるわ。だから霊夢、これからは一人でがんばるの...
そういって出かけた母は、結局帰ってはこなかった。
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「母さんも同じだったのね」
思い返せば、霊夢は母から先々代の事を聞いたことがない。...
妖怪の目的は分からない。復讐のためかもしれないし、名を...
いずれにしろ、役目を終えた巫女は妖怪に狙われ、そして命...
だからといって、いまここで妖怪達に殺されてやるつもりは...
数こそ多いが、周りの妖怪にあまり強いものはいないようだ...
これならまだ突破できる。
霊夢はそう思った。
より強い力を持つ妖怪が来る前なら、突破できる。
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太陽が地平に沈んだ。
そして、ここ紅魔館では夜になってからが、1日の始まりとな...
館の主である吸血鬼、レミリア・スカーレットが目を覚ます...
「おはようございます、お嬢様」
傍らに控えていたメイド長が、目を覚ましたレミリアに始ま...
「おはよう」
レミリアはベッドの上に身体を起こすと、窓の外に視線を向...
外にあるものは闇。空には月が見える。
「いや、少し遅かったようね」
「はい」
律儀に返すメイド長に苦笑しつつ、着替えを済ませる。今日...
「まだ生きてるかしら?」
レミリアは窓を開けながら尋ねた。自分が着く前に死んでし...
「10分ほど前の知らせでは、まだ生きていました」
「そう」
外を見上げる。満月ではないのが残念だった。吸血鬼の戦い...
「行ってくる。きっと長くなるから、後を頼むわ。美鈴」
「はい」
深く頭を下げる赤毛のメイド長をあとに残し、レミリアは夜...
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マヨヒガのスキマ妖怪も動いた。
「藍! ら〜ん!」
「お呼びですか、紫様?」
呼び出しに応じて式が姿を見せる。
「これから出かけるわ」
要件は簡潔。紫がいないときに藍がやるべき事は、全て式に...
「わかりました。どちらに行かれるのですか?」
はぐらかされることも多いが、いちおうは聞いておく。
「ちょっと神社にね」
不気味な笑顔を浮かべて紫が答えた。ゾッとする笑顔だ。こ...
「神社……ですか。そういえば巫女の代替わりがあったそうです...
紫の笑顔におびえつつも藍が言葉を返す。
「ええ。でも、新しい巫女は後回し。用があるのは元巫女の方」
紫の笑みがさらに深まった。藍の妖獣としての本能が、これ...
「わかりました。お気をつけて。あとはお任せください」
どんな状態でも定型文句をスムーズに言えるのは、式の便利...
「任せたわ。じゃあね」
軽く手を振り、紫の姿がスキマに消えた。
~
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あれからどのくらい経ったのか。どのくらい進んだのか。霊...
ずいぶん進んだ気もするが、方角が合っているのか分からな...
今は、息を潜めながら空が見える場所を探していた。月と星...
やがて、木々の切れ目から、月明かりが差し込んでいる場所...
攻撃を警戒しつつ近寄る。
そして空を見上げた。
見えたのは、わずかに欠けた月。
「紅い、月――」
空に浮かぶ月の色は、血に濡れたような紅。霊夢の背に嫌な...
そして、紅い月を背に蝙蝠の羽を広げて浮かぶ、吸血鬼と目...
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“こんなに月も紅いから本気で殺すわよ”
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あの時彼女はそう言った。その後は親しい仲になったが、彼...
「レミリア……」
霊夢の声が震えていたのは疲労のせいだけではない。
「こんばんは、霊夢。ずいぶん探したわ」
紅い月よりもさらに紅い目が笑みの形を作る。
霊夢は今でも、弾幕勝負ならレミリアにもそうそう負けはし...
だが、単純な殺し合いになったとき、夜の吸血鬼に人間が勝...
「紅茶が飲みたいわ。霊夢、あなたの紅茶が」
そういいながら、レミリアは魔力を編み上げる。手に現れた...
「あなたの運命を、少し見させてもらったわ」
運命を操るというレミリアの能力。それを防ぐ手段などある...
「でも、どうやら私が操る必要もなさそう。私がここに来て、...
レミリアは紅く染まった月を見上げる。漂う血の臭いは幻覚...
「さぁ、霊夢。こんなに月も紅いのに――」
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「楽しい夜を邪魔しに来たわ」
声とともに月が裂けた。
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「よいしょっと。はい、こんばんは」
裂けた月から現れたのは八雲紫。
「……なにしに来たのよ」
霊夢は苦りきった様子で尋ねた。
「邪魔しに来たの。邪魔者を片付けるために」
紫は笑顔を浮かべる。
嫌なときに現れる奴――それが紫に対する霊夢の認識だった。...
「この状況でまだ戦う意思があるのね。さすがは博麗の巫女だ...
紫のからかうような言い方が気に障る。
「もう、巫女じゃないわ」
強気に言う霊夢を見て、紫は嬉しそうな顔をした。
「ええ、そうその通り。だからこの状況がある。でも――もうそ...
役割を終えた巫女が戦うのはおかしいわ」
紫がスキマから傘を取り出し、開く。
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それが合図となった。
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周囲を囲む妖怪から霊夢に向かって一斉に攻撃が放たれる。
レミリアも、そして紫も動いた。
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――神槍『スピア・ザ・グングニル』
――境符『四重結界』
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レミリアが巨大な槍を振るい、飛来する弾幕の大半を薙ぎ払...
残りの弾も、紫の結界が阻む。
霊夢に届く攻撃はただの1つもない。
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「「「え――?」」」
三人の口から同時に間抜けな声が漏れる。
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次の行動は紫が速かった。
「私は上空、貴女は地上」
「スキマの指示は受けないわ」
文句を言いつつも、レミリアは霊夢の前に降り立った。
「レミリア……?」
「紅茶が飲みたいわ、霊夢」
「っ……ケーキは、ないわよ」
「辛くなければ何でもいい」
「……おせんべいで、いい?」
「ええ」
それだけ交わして、レミリアは繁みの中に飛び込んだ。紅い...
「さあ、かかってこい。レミリア・スカーレットの手にかかっ...
紅い凶暴な光が闇を斬り裂いて奔る。
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「まるで悪役の台詞ねぇ」
上空では、紫がスキマや結界やよくわからないさまざまなも...
「私も何か台詞を考えておくべきだったかしら」
紫はゆっくりと漂う。そこは何も存在できない空間。弾幕も...
「今日は機嫌が良いわ。だから……そうね、私の所までたどり着...
紫の顔に笑顔が浮かぶ。ゾッとする笑顔だった。
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「……っ」
霊夢はうつむいたまま木に背を預けた。
やっぱり自分の勘は鈍ってしまったようだ。
あの二人を敵だと思うなんて、どうかしている。
「……ふふ……っ」
本当にどうかしている。
自分もずいぶん歳を取ったものだ。
こんなに涙もろくなるなんて――。
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数刻後。
森は荒野となっていた。
生きているのは3人だけ。
「やりすぎよ……」
「そうかしら?」
「そうみたいよ」
霊夢はあきれるように言い、紫は首をかしげてとぼけ、レミ...
「まったく、少しは加減しなさい。見つかったらなんて言えば...
霊夢は頭を抱える。どう説明したら穏便に済ませられるだろ...
だが、どうやら間に合わなかったようだ。
神社がある方向から、厄介な相手が飛んでくる。
「そこの人、あなたたちが犯人ね!」
いきなり決め付ける紅白の巫女。もっとも、犯人というのは...
「森を吹き飛ばしたのはあっち」
「空間ごと削り取ったのはそいつ」
紫とレミリアが擦り付け合いを始める。
「え、紫さんにレミリアさん!? それに……ちょっと母さん、...
「早く帰らないと娘が心配するかと思って」
「その娘ならここにいます!
それで? どうして森がなくなったの?」
小さな巫女が霊夢に詰め寄る。
「えっと、妖怪退治?」
「妖怪退治ね」
「ええ、妖怪退治よ」
視線をそらして言う霊夢に、レミリアと紫も同意する。
しかし、周囲の様子はどう見てもただの妖怪退治ではない。...
「はぁ……まあいいわ。事情は後で聞きます。ひとまず神社に帰...
「そうね、さすがにちょっと疲れたわ」
娘に手を引かれる霊夢に、レミリアと紫も続く。
「霊夢、紅茶をよろしく」
「私はお酒がいいわね」
「疲れたって言ったでしょう……」
遠慮のない友人達だった。
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レミリアと紫は神社の縁側に並んで座り、それぞれ紅茶と酒...
「貴女はもう、人間には関わらないと思っていたわ」
空になった自分のコップに酒を注ぎながら、紫はレミリアに...
「……そんなことはない」
かつてレミリアに仕えていた十六夜咲夜は、今はもういない...
咲夜は、病を患っていることを周囲に気づかせないようにし...
だから咲夜が倒れた時には、もうすでに手の施しようがなか...
それからわずか1ヶ月。咲夜はこの世を去った。
あの時、レミリアは初めて、人間の命の脆さを知った。人間...
咲夜は最期に、それを教えてくれたのだ。
「スカーレットには、後悔があってはいけないのよ」
レミリアは手の中のカップを口に運ぶ。
口を潤す紅茶は、まだ暖かい。
「ようやく人の死を受け入れた?」
「いや、あんな後悔は、もう二度とあってはならないってこと...
空になったカップを見ながら言うレミリアの口調は強い。受...
「そう、ね」
何度も同じ後悔を繰り返してばかりいる紫は、それだけ言っ...
~
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会話も途切れ静かになったところに、這い出るように霊夢が...
「はぁ〜、やっと開放されたわ。まったくあの子は親を何だと...
空いてるコップを手に取ると紫に向ける。注げということだ...
「親に似ず、しっかりした子ね」
霊夢に酒を注ぎながら紫がひどいことを言う。
「霊夢がずぼらなだけよ」
それに追い討ちをかけるレミリア。
友人達が娘と仲がいいのは良いことだが、どうにも彼女達は...
だが助けてもらった手前、素面では文句を言いづらい。酒が...
「いいけどね……。
ところでレミリア。あんた、私の運命を見たとか言ってたわ...
「言ったかしら?」
「言ったわ。いったい何を見たの?」
未来のことをすぐに気にするのは、実に人間らしい。レミリ...
「大したことじゃないわ。来年の春、またいつも通りのことが...
「いつも通り?」
「そう。私達が集まって、霊夢が調子に乗りすぎて、それでい...
今年もそうだったし、去年もそうだった。
「うぇ、私またあの子に怒られるの……」
げんなりした様子で霊夢は酒を口に運んだ。
「嫌なら母親らしい態度を取ったら?」
このところレミリアが神社に来ると、いつも霊夢は叱られて...
「そんな事いわれても、“母親らしい”なんてわからないわ。
いいのよ、あの子ももう一人前――」
「母さん!」
霊夢の言葉をさえぎって、後ろから大声が上がった。寝室に...
「きついとか疲れたとか言っておいて、どうしてお酒を飲んで...
「なに言ってるのよ。疲れたから飲んでるの」
「ダメです! 今日は早く寝てください!
もう、紫さんもレミリアさんも、あまり母さんを甘やかさな...
「ここにいると、親と子の境界がわからなくなるわねぇ」
娘から逃げるようにして酒を飲む霊夢の姿は、とても親のも...
「ちょっと紫! アンタ変なことしてないでしょうね!?」
「してないわよ?」
「ほら、母さん! コップを放しなさい!」
「嫌ー!」
「諦めて寝たら? 霊夢」
「だったらあんたも寝なさいよ!」
「吸血鬼に夜寝ろだなんて、非常識ね」
「あんたは昼も出歩いてるでしょーが!」
「もう母さん! あんまり騒ぐと近所迷惑です!」
「近所なんてないわ!」
「ないわね」
「遠くても近所というのかしら」
「う……」
いっせいに指摘されてひるむと、霊夢は勝ち誇った顔をする。
「だから、もーちょっと飲むわね〜」
「だ、だめです! 母さんの“ちょっと”はちょっとじゃないん...
今夜は、いつもより少しにぎやかな夜だった。
~
* コメント欄 [#sf104dbf]
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