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っぽい第八弾_ラスボス_天神楽_SS2

Last-modified: 2009-08-22 (土) 09:24:32 (5360d)

SS本文

僕○第26回


斎鵬 祭華side


「祭華さん。朝ですよ!早く起きてくださいな」
幻想郷の忘れ去られていた神社、四界神社の朝は遅かった。だってこの神社には祀られている神様が一柱こと私しかいなかったから。
でも今は違う。この神社に華夏が巫女の代理として勤めてからは健康的な生活を強要させられているような気がするなぁ。
「う〜ん、華夏ちゃん。あともう少し〜」
「そんなことを言ってはだめです!そんなことでは皆祭華さんのこと忘れちゃいますよ?」
「……華夏ちゃんも忘れちゃう?」
「忘れちゃうかもしれませんよ?」
それは嫌だ。華夏ちゃんは私にとってとっても大切な子なんだから。
「うぅ、じゃあ起きるよ〜」
「はいはい、早く起きてくださいね?今日の朝御飯は豪華ですから」
そう言って華夏ちゃんは部屋から出ていくけどその去り際に
「私が祭華さんを忘れるだなんて、そんなはずないじゃないですか」
と呟いてくれていたのを私は聞き逃さない。うん、やっぱり華夏ちゃんは厳しいけど大好きだ。


今日の朝御飯は玄米の御握りに美味しそうな川魚、そして華夏ちゃんが人里から分けてもらったお漬け物。あれっ?確かに豪華だけどちょっと足りないような気が
「ねぇねぇ、華夏ちゃん。」
「はい、なんですか?」
というわけで尋ねてみる。アレだよアレがないんだよ!
「お味噌汁はないのかな?」
「今日のお味噌汁は夜御飯の時のお楽しみです。代わりにお魚さんがありますから」
「ふ〜ん、まぁいいかな」
お味噌汁がないのがちょっと寂しいけどお魚も好きだから別にいいや。
「じゃあいただきま〜す」
「はい、いただきます」
華夏ちゃんがここに住み着いてから毎朝こうやって二人で食事をする。華夏ちゃんはお行儀がいいし料理も得意で本当に凄い子だと思う。一人で果物を寂しく食べていた今までとは全然違う。
でも……
「ねぇ、華夏ちゃん……」
「祭華さん、お食事中のお喋りはメッですよ」
「……は〜い」
ちょっとお行儀が良過ぎるのはどうなんだろう。
「はいは伸ばさない!」
「……はい」
うんちょっと厳しすぎるかな。


華夏ちゃんは朝食が終わったらすぐに巫女の仕事を始める。大体午前中は境内の掃き掃除を器用にこなしていて、私との会話にも付き合ってくれるから私も暇をせずにすむ。
「今日も人里のほうに出かけるんだよね?」
「はい、週に一度は顔を出しておかないといけませんし」
今までは午後には仕事を終わらせて一緒に遊んでいたけれどあの異変の後、華夏ちゃんはこの四界神社の宣伝のために毎日奔走している。こうやって週に一度は人里と交流するし天狗の取材にも快く応じているらしい。つい先日には阿礼乙女の所に今回の異変について話に行ったとか。私なんかのためにそこまで無理をしなくても。とは思わなくもない。
「今日も夕方頃には帰れる予定ですからいつものように待っててくれれば……。ってどうしたんですか祭華さん?そんな悲しそうな顔をして」
「う〜、だって私なんかのために華夏ちゃんが無理をしてるなんて思ったら申し訳なくて……」
そういう私の頭に華夏ちゃんが手を載せてくる。あっ、あったかい。
「祭華さん、自分のことを悪く言っちゃだめです。私は祭華さんのために働きたくて働いているんですよ。それなのに自分を悪く言うと祭華さんのために働いている私まで侮辱することになっちゃいます」
「うっ……」
「祭華さんにとって私はつまらない人のために働く滑稽な人ですか?」
華夏ちゃんはずるい。そんなことを言われたら私はもう何も言えなくなっちゃう。
「そんなこと……ない」
「じゃあ、この話はもうなしです」
と、華夏ちゃんがちょっと拗ねたような顔で
「それにですね祭華さん。他の人のために働く人はその人にお礼を言われると元気が出るものです」
なんて言うものだからちょっと意地悪をして
「じゃあ今日もお勤め頑張ってね」
と言ってみたら少し不満げな顔で
「はい、頑張ってきます」
と返してくれた。
うん、華夏ちゃんは本当に可愛い子だ。


華夏ちゃんが出かけるのを見送ってから私は裏手の倉庫に向かう
「さてと、じゃあ、こっちも準備をするかな」
華夏ちゃんが出かけている間は私は主に周辺の森で宝探しをしている。もちろん目的は外の世界の珍品だ。この四界神社の周辺では何やらそういったものが流れ込んできやすいらしい。見つけた物は後で華夏ちゃんに見せてどういうものかを教えてもらっている。
「お弁当〜、お弁当〜、今日のお弁当は梅握り〜」
『ペットボトル』という軽くて割れない瓶に水を溜め、玄米の梅握りと一緒に華夏ちゃんのお下がりの手提げ(華夏ちゃんはエコバックって言っていた)に入れて肩にかける。あとは軽くて壊れにくい収穫物確保用の『段ボール箱』を抱えたら準備は完了。おおっと帽子は忘れずに。
「よし、準備完了!」
あとは適当に見てまわってこの神社の周囲をぐるりと回るだけ。戻ってくる頃には箱の半分ぐらいの珍品は意外と簡単に見つかるものだ。
「さ〜て、今日はどんなお宝が見つかるのかな?」
そう意気込んで私は森の中に足を踏み入れたのだった。


「これは……水鉄砲ですね。中に水を入れて引き金を引けば水が飛び出るおもちゃです」
お野菜が沢山入ったお味噌汁が美味しかった夕食を終わらせたから華夏ちゃんに今回の収穫を見てもらう。
「あぁ……でも残念壊れちゃってます」
と水鉄砲をいじっていた華夏ちゃんの手が止まって残念そうな顔を向けてくる。
「うぅ〜、残念だよ〜」
とまぁ、こんな風に大抵はガラクタばっかり。本当に残念だ。でもまだまだお宝はたくさんあるからもしかしたら何か掘り出し物があるかもしれない。
「じゃあこれは何かな?」
と期待を込めながら私は次の物を取り出す。それは二本の紐にガラス玉がくっついたもので……むむ、これはなんとなくわかるぞ。
「ズバリ、これは外の世界の首飾りだね!?」
「残念はずれです。これは豆電球という……まぁおもちゃみたいなものですよ」
むぅ、また外してしまいました。たまにこうやって推理してみても大抵は外してしまう。
「むむぅ……」
と言う声に気がついて華夏ちゃんのほうに向くと何やら考え込んでいるようだ。そのまま覗き込んでいると思案顔だった華夏ちゃんはふと何かを思いついたような顔で
「もしかしたら光るかもしれませんね。ちょっと待っててください。道具を取ってきますから」
と言って奥の物置のほうへ駆け足で向かっていく。何だろう?と思って待っていると半分に切った夏みかんとかを抱えて戻ってきた。
「こうやって半分に切った夏みかんに銅板と亜鉛板を刺して、銅線を繋げれば……っとよし!」
何やら夏みかんをいじくりまわしていた華夏ちゃんがこっちを見てくる。準備完了かな?
「珍しいですね。こういうものは大抵線が切れて使いものにならないから」
手招きしている華夏ちゃんの手元を覗いてみるとなんと夏みかんに繋がった『豆電球』が光り輝いてるではないか!
「おぉ、凄い!これって果物を燃料にする灯りだったんだね!」
すると華夏ちゃんはクスリと笑う。あ、また間違えたのか。
「いえ、これは電気というものをを燃料にする灯りなんです。外の世界では電球や蛍光灯っていうこれよりも大きいものを灯りにするんですよ」
「へぇ〜。だからおもちゃみたいなものなのか〜」
電気かぁ〜。詳しく話を聞いてみると電気というものは雷を使いやすく加工したようなもので外の世界では電気の力で何でもできるらしい。外の道具の殆どは電気を燃料にして動くのだと教えてくれた。なんだか難しくて私には半分ぐらいしかわからなかったけどやっぱり外の世界のことを聞くのは驚きがいっぱいで楽しいや。


華夏ちゃんが来て以来四界神社の夜は早い。月が天頂に上がる前に華夏ちゃんは眠ってしまう。
まぁ、かくいう私は寝付けないからこうやって神社の屋根の上でいつも物思いに耽っているわけだけど。
最近考えるのは華夏ちゃんのことばかりだ。あんな何でもこなす明るくていい子がどうしてここに留まってくれているのか。どうして外の世界に帰ろうとしないのか。華夏ちゃんは私のためって言ってたけれど私が初めて華夏ちゃんと会ったときの、あの見てて悲しくなりそうな顔を思い出すとやっぱり外で何かがあったのだと思う。
結局私は華夏ちゃんのことをほとんど知らないんだ。まぁ私も華夏ちゃんに自分のことを秘密にしていたからおあいこなんだろうけど。でも、外の世界で神童と呼ばれていたと言っていた華夏ちゃん。ためらいもなく自分の名字を捨てた華夏ちゃん。外の世界に帰ろうとしない華夏ちゃん。ちょっと考えただけでも何か華夏ちゃんにとって悲しいことが外の世界で起きたのだと思う。
だったら今の華夏ちゃんは逃げているだけ?結局はその結論に達するけどそのことを華夏ちゃんに面と向かって話すことができないのは私が臆病なだけなのかな?それとも……


「祭華さ〜ん朝ですよ〜。早く起きてくださいな〜」
「ん〜、もう起きてるよ〜」
寝てるけどね〜
「あれ、珍しいですね。いつもはまだ布団にこもっているのに」
四界神社は今日も朝が早い。でも日が昇る前に起こされるのは勘弁してほしいなぁ。
「って、祭華さんぐっすり寝てるじゃないですか!」
あぁ確認しにきてた。だからもう少し寝かせてくれてもいいのになぁ。
「ん〜、もう起きてるよ〜」
「だったら布団からでて顔を洗ってください!」
「ん〜、もう起きてるよ〜」
あ、間違えた。
「はぁ、まったくこの人は……」
とため息をついた華夏ちゃんのよく響く紙鉄砲でたたき起こされちゃいました。うん、頭によく響く……
「まったく、祭華さんは。もう少し正しい生活を心がけてくださいよ」
「でも……」
「でもじゃありません。祭華さんはこの四界神社の顔なんですから」
普通は日が昇る前に起きたりしないし、第一神社の顔は巫女だよ華夏ちゃん。
「はい、わかりました」
「わかったのならよろしい。では朝御飯の準備をしておきますね」
といって楽しそうな顔で部屋から出ていく華夏ちゃんを見ていると私はなんだか嬉しくなる。華夏ちゃんの事情はまだよくわからないけど、とりあえず一つだけわかること。
「ねぇ、華夏ちゃん」
「はい、なんですか祭華さん?」
私は華夏ちゃんと一緒にいるのが嬉しいんだと。
「華夏ちゃんが頑張ってくれて私、本当に感謝してるんだよ。えらいえらい」
「え、あの……ちょっと……」
華夏ちゃんの顔がみるみる赤くなっていく。
「だからね、本当にありがと!」
「は、はひぃ!!」
真っ赤になりながらあわてて部屋から出ていく華夏ちゃんは本当に可愛くて絶対に手放したくないものだと思う。
「うぅ……、はずかしい……」
と外に出た華夏ちゃんの呟き声を聞くとなんだか嬉しい気分になった。






四界道 華夏side


「祭華さん。朝ですよ!早く起きてくださいな」
私がこの幻想郷の四界神社にお世話になってからしばらく経つけれど相も変わらず祭華さんはぐうたらのまま。まったくこれが神様だといわれて一体どれだけの人が信じるのかしら?
「う〜ん、華夏ちゃん。あともう少し〜」
と言いながら布団に籠る姿は本当に子供みたい。まぁ姿はまさしく少女そのものなんだけどね。
「そんなことを言ってはだめです!そんなことでは皆祭華さんのこと忘れちゃいますよ?」
といえば悲しそうな声で
「……華夏ちゃんも忘れちゃう?」
なんて言うものだからつい意地悪を言ってしまう。
「忘れちゃうかもしれませんよ?」
「うぅ、じゃあ起きるよ〜」
「はいはい、早く起きてくださいね?今日の朝御飯は豪華ですから」
これが四界神社の朝の光景。布団から這い出た祭華さんの姿を確認してから部屋をでる。とその時に
「私が祭華さんを忘れるだなんて、そんなはずないじゃないですか」
とつい呟いちゃったけれど祭華さんに聞こえちゃったかしら。


今日の朝御飯は玄米の御握りに美味しそうな川魚、あとは人里から分けてもらったお漬け物。御握りは私の好物だからついいつも握ってしまう。お弁当にもなるしね。
「ねぇねぇ、華夏ちゃん。」
「はい、なんですか?」
祭華さんがなにか足りなそうな顔で尋ねてくる。あ、あれのことかな。
「お味噌汁はないのかな?」
あぁやっぱり。祭華さんは好物のお味噌汁がないから不満なんだな。でも今日は人里に向かう予定だからその時にいいお味噌をついでに買うつもり。だから
「今日のお味噌汁は夜御飯の時のお楽しみです。代わりにお魚さんがありますから」
普段は出さない川魚で我慢してもらおう。
「ふ〜ん、まぁいいかな」
うん、祭華さんも納得してもらえたようだしそろそろ食事にしようかな。
「じゃあいただきま〜す」
「はい、いただきます」
こういう食卓での祭華さんの表情は明るい。
いままで祭華さんは一人で果物を食べて過ごしていたらしい。だからこういう食卓が新鮮なんだろうけど。でも……
「ねぇ、華夏ちゃん……」
「祭華さん、お食事中のお喋りはメッですよ」
「……は〜い」
これはちょっとお行儀が悪いんじゃないかな。
「はいは伸ばさない!」
「……はい」
ちょっと厳格にしつけないとね。なんて教育ママみたいについ振舞ってしまう。


朝食が終わったら後片付けをして、それから巫女の仕事を始める。大体午前中に境内の掃き掃除を終わらせて午後には暇をつぶしてたけれど、最近は神社を離れることも最近多くなったかな。かくいう今日も人里に建てた分社の掃除をこなさなきゃいけない。正直大変だけど頑張った分だけ結果が出るのは気持ちいいからやりがいもある。
「今日も人里のほうに出かけるんだよね?」
と屋根の上で手持無沙汰にしていた祭華さんが話しかけてくる。この時間は祭華さんにとって暇なのでこういう雑談はよく行うのだ。
「はい、週に一度は顔を出しておかないといけませんし」
先日起こした異変『界夏祭』。これによって四界神社の名は幻想郷に広く知れ渡ったけれどこれですべて解決というわけにはいかなかった。なぜなら祭華さんは忘却の力を司り、その力でこの四界神社のことを忘れさせてしまうとのこと。それも信仰の力が増えれば増えるほど強力になるというのだから手に負えない。だからこうやって定期的に四界神社のことを宣伝しなければみんな忘れてしまって信仰の力が失われてしまうのだ。
「今日も夕方頃には帰れる予定ですからいつものように待っててくれれば……。ってどうしたんですか祭華さん?そんな悲しそうな顔をして」
「う〜、だって私なんかのために華夏ちゃんが無理をしてるなんて思ったら申し訳なくて……」
まったくこの人は、自分が私にとっての重しになっていると思ってる。でもそんなことはない。彼女のために働くのは楽しいし、それに何よりこの人には他人に頼るということを覚えてほしいと思う。
だから子供をあやすように右手を祭華さんの頭に乗せ、諭すように語りかける。
「祭華さん、自分のことを悪く言っちゃだめです。私は祭華さんのために働きたくて働いているんですよ。それなのに自分を悪く言うと祭華さんのために働いている私まで侮辱することになっちゃいます」
「うっ……」
「祭華さんにとって私はつまらない人のために働く滑稽な人ですか?」
これは本心。自分にとってどうでもいい人だったら私はここまで親身に尽くそうとは思わないはず。
「そんなこと……ない」
「じゃあ、この話はもうなしです」
でも、たまには褒めてもらいたい時もあるかな。だから
「それにですね祭華さん。他の人のために働く人はその人にお礼を言われると元気が出るものです」
なんて言ってしまう。でも祭華さんは意地悪だから
「じゃあ今日もお勤め頑張ってね」
としか返してくれないので不満が出てしまう。でも頑張ってなんて言われたら頑張るしかないよね。
「はい、頑張ってきます」
とちょっと不満げに返せば祭華さんは嬉しそうな笑みを返してくれた。
うん、やっぱり祭華さんは素敵な人だ。


「ふぅ、これで終わりかな」
つい先日人里に新しく造った分社の祠にはあいにくだがまだ賽銭の類は供えられていない。まぁウチ以外の神社は両方とも妖怪がたむろっている場所と思われているらしいから、もしかするとここの住人達には賽銭をするという考えが抜けているのかもしれないけれど。
「さて、そろそろ帰らないと夕食の支度に遅れちゃう」
西を見ればもう日が傾きかけている。今から帰れば十分間に合うけれど
「祭華さんのためにいいお味噌を買わないとね」
そう呟きながら市場のほうへ足を向ける。ここの市場は妖怪相手にも商売をするためか皆気さくだ。例えばこう歩いているだけでも
「お、うんたら神社の巫女さんじゃねえか!いい夏みかんがあるぜ!」
と向こうから話しかけてくれる。あ、やっぱり忘れてるな。
「あ、夏みかんですか。いいですね、二つ頂けますか?あとウチは四界神社ですよ」
と細かいフォローを入れておく。こういう細かい積み重ねが何事にも重要なのだ。
「毎度あり!っとそうだったな。すまんねぇ、詫び代わりに一つおまけにしとくよ!」
「あら、ありがとうございます」
と受け取った夏みかんをかごに入れてもう少し市場を見て回る。ここの空気は好きだ。人徒歩ととの関わりを感じられる。そう、外の世界では全く感じなかったものだから私にとって新鮮なものと感じるのだろうなぁ。


さて、夕食が終ったあとは普段は各々自由に過ごすけれど、こうやって私が遠出をした日には必ずと言って行う日課みたいなものがある。
「これは……水鉄砲ですね。中に水を入れて引き金を引けば水が飛び出るおもちゃです」
それは祭華さんが神社の近くで集めたという外の道具を見せ、私がその道具が何なのかを説明するというものだ。祭華さんはこういうものが好みらしく私がいない間にどこからかともなく集めてくる。でも大抵はどこか壊れてるけどね。さてこの水鉄砲はどうだろう?
「あぁ……でも残念壊れちゃってます」
水鉄砲に水を入れて引き金を引いてみても水が出てこない。これはポンプが壊れてるな。
「うぅ〜、残念だよ〜」
とせっかく見つけた物が壊れているときは祭華さんは本当に残念そうな顔をする。それが子供みたいでほほえましい。一応私なんかよりずっと年上なんですけどね。
「じゃあこれは何かな?」
と祭華さんが見せたのは豆電球。あ、懐かしいなぁ……。
「ズバリ、これは外の世界の首飾りだね!?」
と、祭華さんが問いかけてくる。こういう表現が本当に子供らしくてほほえましい。だからやさしく語りかけてしまう。
「残念はずれです。これは豆電球という……まぁおもちゃみたいなものですよ」
さて、豆電球か〜。これを光らせたら祭華さん驚くだろうなぁ〜。でも電池がないことには光らせれないし。私の手持ちの充電池はもう使い切ったはずだから……。
「むむぅ……」
う〜ん他に何か手は……。要は電気があればいいわけで……。っとそういえば豆電球を光らせるだけならあの方法があるじゃない!確か銅板と亜鉛板はあったはずだから……
「もしかしたら光るかもしれませんね。ちょっと待っててください。道具を取ってきますから」
と言って奥の物置のほうへ駆け足で急ぐ。うん、確かにあった!これならいける!
あとは半分に切った夏みかんを抱えて戻り、祭華さんの前でテキパキと作業をする。
「こうやって半分に切った夏みかんに銅板と亜鉛板を刺して、銅線を繋げれば……っとよし!」
手元ではあの豆電球がほのかに光っている。ダメ元でやってみたけどうまくいったみたい。
「珍しいですね。こういうものは大抵線が切れて使いものにならないから」
手まねきをして祭華さんに覗かせる。すると祭華さんは目を大きくして
「おぉ、凄い!これって果物を燃料にする灯りだったんだね!」
なんて本当に子供みたいなことを言うからついおかしくなって笑ってしまう。
「いえ、これは電気というものをを燃料にする灯りなんです。外の世界では電球や蛍光灯っていうこれよりも大きいものを灯りにするんですよ」
「へぇ〜。だからおもちゃみたいなものなのか〜」
そのあとは電気というものがどういうものなのかを祭華さんに説明した。私なりにここの住民の知識で分かりやすく説明したつもりだったけどちょっと難しかったかもしれない。でも何はともあれこういう穏やかな時間は私にとっても心安らぐ時間だった。


朝が早ければ必然的に夜も早くなる。ここ最近おおよそ九時ぐらいには布団に籠っている。まぁ夜遅くまで何かするものがあるわけではないというのもあるのだけれど……
でもこのところ布団に籠っても祭華さんのことが頭から離れず寝付けない。あの人はいつも自分を犠牲にしようとする。祭華さんから聞いた話、あの人が神様になったわけも結局は他人の為だ。でも、その方法が間違っていたとしてもそれを正してくれる人はそばにいなかった。だから『界夏祭』のときも一人で思いつめてしまったのだろう。
結局私はいままで祭華さんのために働いていた気になっていただけなのかもしれない。あの人の想いに気づかず、ただ私の考える祭華さんのためになることを押しつけていただけなのかもしれない。
でも、そうしてしまうのは私が祭華さんに見捨てられたくないから?そう考えてみても答えは見つからない。私にとって祭華さんは一体何なんだろう……


「祭華さ〜ん朝ですよ〜。早く起きてくださいな〜」
四界神社の朝は早い。日が昇る前に祭華さんをさっさと起こすのはもはや日課になりつつある。
「ん〜、もう起きてるよ〜」
「あれ、珍しいですね。いつもはまだ布団にこもっているのに」
といっても油断できない。だってあの人は子供みたいな人だから……ってやっぱり!!
「って、祭華さんぐっすり寝てるじゃないですか!」
「ん〜、もう起きてるよ〜」
それは子供のいいわけですよ、まったく。
「だったら布団からでて顔を洗ってください!」
「ん〜、もう起きてるよ〜」
いや、これは寝ぼけているな。
「はぁ、まったくこの人は……」
とため息をつき、懐から紙鉄砲を取り出し、鳴らす。よく響く神様が宿った紙鉄砲はよく響いて祭華さんを布団から飛びあがらせてくれた。うんよく響く。この神様はいい仕事をしているなぁ。
「まったく、祭華さんは。もう少し正しい生活を心がけてくださいよ」
「でも……」
また甘えようとする。まったくこの人は……
「でもじゃありません。祭華さんはこの四界神社の顔なんですから」
私にとってはですけどね。っと心の中で付け足しておく。
「はい、わかりました」
「わかったのならよろしい。では朝御飯の準備をしておきますね」
と部屋から出ようとする私の表情が緩んでいることに気づく。あぁ、いろいろと悩むことは多いけれど、一つだけ確かなことがある。
「ねぇ、華夏ちゃん」
「はい、なんですか祭華さん?」
それはこの可愛らしい神様と一緒にいるのが……
「華夏ちゃんが頑張ってくれて私、本当に感謝してるんだよ。えらいえらい」
私にとっての幸せなんだ……。って!えぇ!!
「え、あの……ちょっと……」
そんな不意打ちズルイ!!
顔が赤くなるのを感じながら慌てふためいていると
「だからね、本当にありがと!」
なんてとどめの一撃を放つのだから
「は、はひぃ!!」
なんて情けない声を出しながらあわてて部屋から出てしまった。
「うぅ……、はずかしい……」
でも、そんなことがいえるのも一つの幸せだよね?

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