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アリス・イン・トリプティックワールドSS

Last-modified: 2009-06-30 (火) 23:37:37 (3818d)

SS本文

「……困りました」
 迷いの竹林にて、一人の少女が困った声をあげていた。
「折角、身体を手に入れてあの人から逃げられたのに、まさかこんな所に迷い込むなんて……」
 白を基調としたエプロンドレスを身に纏い、一冊の書物を持った少女――魔導書「Alice in Triptych World」の断片である魔導的存在であるアリスラビットは、歩く度にころころと風景の変える竹林の中で膝をついた。
「あの人が逃げたのに気付いていないはずがありませんし……、こんなところにいたら何時捕まっちゃうかわかりません。どうしよう」
 アリスラビットは頭を抱える。迷いの竹林に迷い込んだこともさることながら、彼女が最も恐れていたのは、彼女を創り出した魔法使いセルシウス・S・ラインヴァインに連れ戻されることである。
 セルシウス・S・ラインヴァイン。魔法の森に住まう魔法使い。退屈を何よりも嫌い、常に何かしらの研究を行っている通称「停滞の魔術師」。その忌名の由来は研究をしていないときは常に自身の周囲の空間を静止させ、時の流れからも隔離して停滞しているためである。
 そんな彼女が、暇つぶしに作ったのがアリスラビットの本体である魔導書「Alice in Triptych World」。この本は既存の二つのアリスの世界、そして、新たなる一つの世界。合わせて三つの世界を旅するアリスの話を描いた魔導書であり、その特性は、この魔導書に出てくる登場人物の特性を一時的に得るというものである。
 だが、完成と同時に事件が起きた。
まず、主人公であるアリスの項ととある兎の項が合わさり、本来存在しないはずのキャラ、魔法兎アリスと言うキャラが主人公の枠に収まったこと。
 更には、魔法兎アリスの項が、外部の魔力を自動で集め、擬似人格アリスラビット、チェシャ猫、ジャヴジャヴの三つを持つ身体を創り出してしまったのである。
 そして、擬似人格チェシャ猫が、停滞しているセルシウスの隙を突き、魔導書を持って逃げ出してしまい今に至る。
「……暇つぶしの為に作った私が逃げたと知れば、あの人はきっと追ってきます。それでもし捕まったら、短気なあの人の事ですから……適当な実験の材料にされるので済めばいいのですけど……」
 セルシウスは基本的には寛容だが、暇つぶしの道具を奪われたり、研究の邪魔をした相手には、悪鬼の如き表情で、恐るべき火力の魔法を雨霰と降らせてくる。
まだ、身体が出来る前、「Alice in Triptych World」に手を出した霧雨魔理沙が、その日から一週間の間、隙を見せる度に、完全追尾型無制限距離狙撃スペル「魔弾 タスラム」を撃たれ続けて、休まる事も、寝ることもできない日々を過ごしていたらしいということは、その事件が終わった後に、清々しい顔のセルシウスがアリス・マーガトロイドに語っていたことがある。
「そんなことをされたら、私死んでしまいます。……ってあれ? それだとどこに逃げても意味がないような……。いえいえっ! 私自身が暇つぶしの為のものですから、徒に吹き飛ばすということはないでしょう! そうに違いありませんっ!!」
 何とか自分にそう言い聞かせる。不安はなくならないが、もう後には引けない。アリスラビットはむしろこれからどうするかを考え始める。
「確か、迷いの竹林から出たければ、幸せ兎を探せばいいんでしたね。とりあえず、もう一回そこらを回ってみるとしましょう」
 だが、歩いても歩いても、何も見つからず、やがて日が暮れてこれ以上は動けなくなってしまった。
「夜は妖怪の時間。私も戦えないわけではないんですが、出来るだけ戦闘は行いたくありませんし、チェシャ猫? 御願いします」
 アリスラビットがそう言うと同時、彼女を纏う雰囲気が代わる。
「にゃー。せっかく晴れて自由の身になったんだから戦えばいいのに。私たちの中で最も力をうまく扱えて、最もスペルカードを扱える兎の少女ちゃんが」
(そう言わないでください。私は戦いは嫌いです。傷つけば憎しみを抱きます。そしてその憎しみがまた何かを傷つけ、新たな憎しみを生む。そう言うのが私は……嫌です)
 チェシャ猫の言葉にアリスラビットの意識が答える。ジャヴジャヴは常に深層意識にしかいない。彼女の意識が上がってくるのは、チェシャ猫とアリスラビットが両方とも表に出ようとしないときくらいである。
「ジャヴももう少し浅い所にいればいいのに……そうしたら御話しできるのにね。私たちも折角本と一緒でトリプティックなのにね」
(そうですね。「Alice in Triptych World」……三面世界のアリス。でも、三人の少女達の世界ともとれますからね。私たちも三人の少女(アリス)なんですから)
「まぁアリスはアリスだけなんだけどねっ」
 チェシャ猫は笑いながらそう言う。そして、それと同時にチェシャ猫の姿が隠れ、気配が消えていく。次の瞬間にはチェシャ猫は他の妖怪などからは感知できないようになった。
「これで安泰安泰。それじゃあ、明日のことは明日考えるとして、今日は寝ようか?」
(そうですね。寝床を探すにもどこに行けばいいのかわかりませんから、むしろここを寝床に変えた方が無難でしょう)
 チェシャ猫はアリスラビットの指示のもとに寝床を作り上げていく。しばらくの間頑張って、そこそこ無難な寝床が出来た。
「それにしても、結局セルシウス様は来なかったね。もしかしたら見逃してくれたのかも?」
(どうでしょうか? あの人の執着は時に空恐ろしくもなります。暇つぶしの為に作った私たちをそう簡単に捨てるとも思えませんが……)
 アリスラビットの言うことも尤もである。故にチェシャ猫は簡易寝床でごろごろ回転しながら考える。
「にゃーん。きっかりさっぱりわかんない! わからないから、気にせず今日は寝よう!」
 チェシャ猫はそう言って毛布に包まる。
(全く、でもそうですね。わからないことを考えて疑心暗鬼になるよりも、今は明日の為に休息を得るべきですね)
 アリスラビットはそう思い、深層意識に潜ろうとする。だが、その前にチェシャ猫の声に止められた。
「ねえアリス? 私たちはこれからどうすればいいのかな? セルシウス様から逃げたのは良かったけど、行く当てもなければこんなとこで迷ったし、ちょっと……ね」
それは、チェシャ猫らしくない気弱な発言だった。
(そうね……でも、行く当てなら決まっていますよ。私たちの名の通りに)
「名前の通りに?」
(ええ。「Alice in Trip TycheWorld」……未来の世界を旅する少女。ただ、その時その時を楽しみながら、未来に向かって行けばいいだけですよ。そういったのはチェシャ猫の方が得意でしょう?)
「にゃにゃっ! うん! そうだね!! よ〜し、しっかり休んで明日から頑張るぞ〜!」
 すっかり元気になったチェシャ猫はすぐに寝息を立て始める。アリスラビットもそれに続き深層意識に潜る。未来の世界へと旅するだけの体力を溜めるために。
End.

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