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ダウン・T・ウォーターシップ_SS

Last-modified: 2009-12-27 (日) 14:16:07 (3641d)

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僕○第55回


「ようやく来たか。待ち侘びたぞエル・アライラーよ」
「貴様が虹の王子か。フリスめ、端から我を切り捨てるつもりだったな」
 エル・アライラーは嘆息する。そして自らの敵を見る。それは歪な存在だった。天を掴まんと長く伸びた右腕。地を征するがごとき剛腕なる左腕。そして兎に有るまじきその身に纏う3つの翼。それは兎と呼ぶには相応しくない姿の男だった。
「私の姿に驚いているのか? 私はフリスより天空と大地を征するに相応しい身を授かった。出来そこないの戦闘狂のお前と違ってな」
「我が出来そこないだと?」
 エル・アライラーは悪鬼の如き眼光で虹の王子を睨む。だが、虹の王子はいともせずにエル・アライラーの問いに答える。
「ああ、出来そこないだ。特に今回にお前などいい例だ。フリスが何故お前を切ったかわかるか? いつまでもラブスカトルとの決着のつかないお前に焦れたのさ」
「ふん。何かと思えばそんな些事で事を起こしたのか。我が祖ながらに……出来そこないなどアレにこそ相応しい」
 エル・アライラーは嘲笑と共に一蹴する。虹の王子も笑う。笑いながら言う。
「そう、そこだ。祖であるフリスの意向に背く。今回に至っては私も正気を疑った。ラブスカトルと手を組んだだと? お前は一体何を考えている?」
「愚問だな。貴様は我らの争いに介入した。制裁を受けるのは当然だろう? 我が配下は優秀でな。貴様の目論見は知っている。我と奴を同時に屠り、この地を奪おうとはなかなかに豪胆。気概は良いが、我は許さん。此度は奴も賛同したな」
「……もう一度だけ問おう。正気か? 仮に、万が一にも私に勝てたとして、その先に待つのはフリスの加護の消失だぞ? インレの加護を持ったラブスカトルに勝つのは不可能だろう。全く、権謀策略に富んだインレの考えそうなことだ。わかったら――」
「愚問。愚問だな。我を切ったフリスの加護などいらぬ。だが、力は戴く。貴様を屠った次はフリスとインレだ。もう一度言おう。奴は賛同したぞ」
 虹の王子は驚きエル・アライラーを見たが、そこに狂気の色は全くなく、それが本気であり、揺るぎ無いことを知る。
「成程……お前は既に正気ではないようだな。自らの祖であり、創生神であるフリスに対し敵愾心を抱くなどと正気の沙汰ではない。お前はここで死んでもらう。ラブスカトルはその後だ」
「その必要はないわ。私もエル・アライラーと共に貴方を討つから」
 虹の王子の言葉に応えるかのように空間が歪み、虚空から一人の女性が躍り出る。
「遅かったなラブスカトルよ。危うく我一人で屠るところだったぞ」
「悪かったわね。貴女の兎達に作戦を与えていたら遅くなってしまったのよ」
「さて、虹の王子よ。そろそろ死に往く決意はついたか?」
「くっくっく――あーはっはっはっ!!」
 突如虹の王子が大声で笑い出す。気でも触れたのかと思ったがそうではなく、愉悦を抑えきれないといった形相で笑い続ける。
「くっくっく。いや済まない。余りにも可笑し過ぎてつい笑ってしまった。私を屠る? 出来そこない共が調子に乗るなよ。いいだろう。謝肉祭(カルニバル)の始まりだ」
 宣言と共に虹の王子は一振りの翼を振り下ろす。それだけで二人の視界を覆い尽くすほどの翼の弾幕が暴風の様に巻き起こる。
「莫迦みたいな火力ね。まるでどこかの誰かさんみたい。でも、まだこれは始まりだから……どうするの?」
「愚問だぞラブスカトル。先陣を切り拓かずして如何様に戦うというのだ?」
「そうよね。先陣を切り拓き、制覇し、蹂躙する。それこそがエリル・フレイ・ラー足る貴方の戦いざまよね。私は補佐するわ。存分に行ってきなさい!」
「当然だッ!」
 エル・アライラーは弾幕を気にも留めず突き進み、漆黒の大剣「サーン・レイド」を虹の王子目掛け振り下ろす。虹の王子は右腕で軽々と受けるが、突如片膝をつき慌てて左腕でエル・アライラーを払いのける。
「!? なんだ……今のは?」
 虹の王子は突如身におこった謎の衝撃に疑問を抱くが、次々と襲い来るエル・アライラーの猛攻に原因の追及も儘ならないまま戦闘に意識を向けさせられる。
「どうした! 虹の王子よ! まさかその程度ではあるまい!! 貴様は我とラブスカトルを屠る者なのであろう!? もっと力を見せよ! 渇えてしまうわ!!」
「くっ! 舐めた口を利く。ならば見せてやろう。この手に満ちよッ!」
 虹の王子は右腕を天に伸ばす。そしてその手を握り締めると、見る見るうちに、天上の月が欠けてゆく。
「月を……喰らう!? くっ、力が……」
 月からの供給が途絶え、ラブスカトルの展開していた身体強化呪式が途絶える。
「ほぅ? それは中々勝手のよさそうなものだな。貴様を屠る前にその力も戴いておくとするか」
「減らず口もここまでだ。月が太陽に喰われた。この意味が理解できぬわけではあるまい」
フリスの断罪だな」
「そうだ。防御・回避不可能のExスキル。フリスの加護のないお前は撃つことができない。お前は私がこれを行うよりも早く決着をつける必要があったが……終わりだ」
 嘲りではなく、ただ事実を淡々と告げるが如くに虹の王子は言う。だが、エル・アライラーは詰まらないものを見るようにして吐き捨てる。
「下らん道化だ。これが天空と大地を支配する器などとは、フリスも最早仕える価値もない」
「なにっ? どういう意味だ?」
「下らん問答はいらんと言っているのだ。それで我が泣いて懇願するとでも思ったのか? 道化にしても3流以下だな」
「くっ! どこまでも侮辱をっ!! ならばこの場で朽ち果てよ! Ex フリスの断罪」!!」
 空間を切り開く斬撃が戦場一帯を飲み込み蹂躙し、すべてを灰燼へと帰させる。もはやその場には虹の王子以外には生あるものは存在しない――はずだった。
「馬鹿なっ!? 何故――」
「生きているかって? エル・アライラーの言うとおり本当に3流ね。私のことを忘れていたのかしら?」
 そこにあったのは漆黒の球。それは黒き羽を幾重にも束ねて作り出された物体。フリスの断罪を防いだそれは――。
「何だそれは!? インレの供給なしに何をした!?」
「インレの包翼。月にとって満ち欠けは普通のこと。満月が最も力を持つのは道理ですけど、新月は新月で力を持ちます。勉強になりましたね? では――死んでください」
 インレの包翼が完全に解かれたそこにいたのはラブスカトルとエル・アライラー。そして――。
「出番だ。往け――9R!!」
 エル・アライラーの忠臣たる8羽のウサギと1羽のユリカモメが手に持つ武器を持って虹の王子を打ち抜く。
「ぐあぁあ!! 馬鹿なっ!? この私が出来そこないに敗れる!? 有り得ん!! 私は敗れるわけにはいかんのだ!」
 虹の王子は左腕を地に叩き、地を砕きその余波で9Rを退け、天へと飛翔する。
「くっ! この屈辱消して忘れんぞ! 覚えておけ!!」
「……本当に3流だったわね」
「構わん。次はフリスを屠る」
 去りゆく虹の王子を冷徹な目で見届け、エル・アライラーとラブスカトル、そして9Rは次なる戦いへと向かうのだった。

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