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ドーラ・グスタフ_SS

Last-modified: 2010-05-02 (日) 00:28:03 (5109d)

SS本文

僕○第81回


 戦争が終わってしまった。……我は碌に戦果をあげることなく戦争は終わり、我は眠りに就くこととなった。……不甲斐ない。我自身が不甲斐ない! 敗北してしまった! 我らは敗北してしまったのだ! 偉大なる総帥を失い。彼奴等は既に戦意を失ってしまった。……最早我らの出番はない。ただ眠るのみ……。




……ふと目が覚めた。風がおかしい。音がおかしい。……否。それよりもまず……それを知覚出来る身体がおかしい。己が身体をじっと見る。
「……人の身体か……これは」
 我らを御し操っていた人間の姿であった。今の私は。構造が不明だったが、しばらく思いつくままに身体を動かしていたら幾分か慣れた。
「それにしても……気候が違うな。ここは別の土地か」
 我は周囲を見渡す。青々とした木々、下方の遠方に見える村。……成程、ここは山だったか。我は村へと歩を進めようとし……そして見る。空を飛ぶ人のような影。
「何だあれは? 人が飛翔するなど奇っ怪な……墜すか」
 我は手を横に振る。無意識の行動であったが、それに呼応し我が左方に54口径臼砲カールが現れる。ふむ……使った事はないがまぁよいか。我は砲を構え、照準を合わせ、鳥人間に対し臼砲を放った。
「墜ちろッ!」
「はい?」
 鳥人間が我が声に気付き此方を見る。だが遅い。既に弾は放たれている。初速378m/sec――音速突破の弾丸を避けられる事は――!?
「おぉっと。危ないですねぇ」
「避けた……だとっ!?」
「おや? よく見ると見ない顔ですねぇ。このままほっといたら色々面倒なんで、先ほどのお礼も兼ねて私が追い出すとしましょう」
「くっ! 化け物がっ!!」
 我はもう一度手を振り臼砲を仕舞う。カールは弾装交換が色々手間がかかる為に連射は不可能なのだ。真坂避けられるとは想定外だった。我は踵を返し走る。
(向こうは飛翔で迫る……ならば往くは獣道か)
 我は獣道を駆ける。後方からは鳥人間が我を遥かに超す速度で迫りくる。
「ローランド1……セット!」
 我は再び手を振るい、虚空より3本の地対空ミサイルが現れ、鳥人間を襲う。
「木々の重なるこの状況でどう避ける!? 鳥人間!」
「そのような遅い弾など――」
 一瞬鳥人間の姿がぶれ――姿を消した。
「な……何っ!?」
「――避ける事なんて造作ない事ですよ」
 気が付けば、鳥人間は我が背後に立ち、手から烈風を起こし我を吹き飛ばした。
「ガッ……ハァッ!!」
「さて……無断侵入の罰はこれぐらいで構いませんから、後は大人しく帰ってもらえますか?」
 木に激突し何とか立ち上がった我に対し、鳥人間はそう言う。だが……愚問。舐められたままで済ませるほど我は出来ていないし、それ以前に、我を生み出した者の名誉の為にも、我が舐められることは認められない! 故に……。
「……愚問だ」
「あやや」
「我は貴様を討ち……そしてその後にこの山を下る」
「では、力付くでのした後に、山の麓に置いときますね」
 さて……どうするか。正直相手の速度は常軌を逸している。アレに如何様にして致命打を与えればよいか。そこが問題だ。
「さて……ではいきますよ」
 来る。高速で接近してからの速度を生かした連撃による我の行動を阻害する動き。まずは離れてもらうか。
「ローレライ1……セット」
 我は眼前に地対空ミサイルを出す。鳥人間は警戒しながらも接近しようとする。そこで我は――地対空ミサイルを起爆させた。我の眼前で。
「なぁあああ!?」
 鳥人間は咄嗟に爆風から逃れる。想定内だ。我はそのまま臼砲を取り出す。弾切れだが構わない。これはブラフ。先ほどの射撃を知っている鳥人間は射線から外れる為に、再び地上に降りてくる。ここが唯一のチャンス!
「出ろ。我が全身――」
 虚空から辺りを薙ぎ払って現れるは我が全身――全長47.3m、全高11.6m。機上には30mを超す砲が備え付けられているソレは、見る物を畏怖させるには十二分であった。
「あややややっ! しかし、その砲では私を撃つ事は出来ない筈ですっ!」
 ああ、そうだ。これの砲は遠距離を穿つ為の物。間違っても至近距離の敵を撃つ為の物ではない。だからこそ、そこに隙が出来る。我は態々ネタばらしすることなく機体を動かす。理由は勿論――潰す為に。
「ま、まさか……」
「…………」
「む、無理です! これは流石に無理です!! という訳で私は逃げます!!」
「……行ったか。ふぅ……厳しい戦いだった」
 むしろ、相手の逃げ方が怪しい。役目に忠実であれば、我が引くといった時点で最早戦闘する必要性はないと感じたのであろう。彼奴の掌の上で踊らされているのは不快ではあるが、されど戦って勝てたかどうかも不明瞭故に、我は深追いは避けることにした。


 その後、我と天狗(鳥人間の事)と戦っていたのを見ていた技術者――河童といった者達に技術交換を行い、この地の事を聞き、我は新たなる目的……新たなる戦争を起こすことを決めた。だが、それはまた別の機会に……。

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