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御山 速水SS

Last-modified: 2009-06-17 (水) 21:49:32 (3623d)

SS本文

 私は自分の異能が嫌いだった。
 私には、情報を集める能力があった。だが、これは私の脳量限界を顧みずに発現するため、能力の制御がうまくいかない昔は、様々な情報が絶えず私の脳を更新し、非陳述記憶以外の記憶は、例え長期記憶の陳述記憶をも浸食し、情報を書き変えていった。
故に、私の過去は所処で途切れが存在する。異能をある程度制御できる年になってからは、長期記憶には浸食しないように注意するようになったし、大切な情報を手帳に記録するようにした。
 使いこなせば色々と便利な能力ではあったが、それでも私は自分の異能が嫌いだった。
 私は人間が信じられなかった。
 私にはもう一つの異能があり、それは人々の望むものが分かるという能力だった。人の願望の大半は悪意が伴うもの。誰かを蹴散らしてでも金が欲しい。快楽の為だけに人を殺したい。それ自体を私は否定しない。それが人の本質だと知っているから。だからこそ、それらの感情を社会と言うペルソナ(仮面)で隠しているのが醜いと思った。
 親切をする者たちの望むものは、優越感か騙すための下準備がほとんどだった。
 私はそんな偽称とペルソナに塗れた人間が信じられなかった。
 だが、それは私が幼かったから。自身の持つ2つの情報に関する異能を以て、全てを理解していた気になっていたから。意図せず得る情報は知でなく識であり、私は知識は持っていなかったというのにも拘らず。
 私は天狗になっていた。何も知らないくせに、この世の中を二元論で分け、人の在り方さえ善と悪で分けて考えていた。世界はそんなにも単純ではなかったというのに。


 そんな私を変えたのは一冊の新聞だった。ある日、私は何気なく人里で何をするわけでもなくぼーっとしていた。そして、空を見上げていたら、黒い影が横切り、空から一冊の新聞が落ちてきた。その新聞は「文々。新聞」と書かれていた。
 私は何気なくその新聞を読んだ。記事の内容は紅魔異変についてだったが、その内容は情報を識る私だからわかるが、大半が証拠の無い適当なもので、ろくな証言もないという、情報としても暇つぶしの娯楽としてもいまいちだと言わざるを得ないものだったが、私はそれに感銘を受けた。
 何に? と問われても「今」の私には完全には答えられない。ただ、「この時」の私は確かに、この新聞に感銘を受け、同じような情報を伝えることをやろうと考えた。……恐らくではあるが、私は自分をやり直したかったのだと思う。無知の知で世界を誤認し、その世界を閉ざした私は、どこかで自身が誤っていたことに気付いていたのだと思う。いや、むしろ誤っていることを渇望していたと言っていいかもしれない。私は絶望することに飽きていたのだ。
 私は、自身の力を以て、人々が望む情報を、人々が最も望ましいと思えるような記述で記し、人里の中心に御触れ書きのごとく看板を刺し、その紙を張り付けた。
 人々が望む情報を、人々が望む形で書き記す私の情報版は瞬く間に評判になった。だが、評判になりすぎ、見る人が多くなってしまったので、情報版では対応が取りきれなくなってしまった。どうしようかと考えたが、私はすぐに新聞を作ろうと思い立った。ようやく、私を変えたあの人(誰だか知らない)と同じ土俵に立てると思うと感極まった。
 しかし、すぐに問題が出た。新聞をどうすれば作れるかの情報はすぐにわかったが、機材が全くないため、できないということがわかったのだ。だが、こんなところで諦める気はなかった。機材がないならば、機材のあるところに行けばいい。私は自身の命に未練などなかったため、躊躇いなく妖怪の山まで行くことを決意した。


 妖怪の山までの道のりはいたって平和なものだった。妖怪とかが現れないようなタイミングで道を進み、弱みを持っている妖怪などはその弱みで脅して先へと進んだ。眼前の妖怪の山に入ろうとした直前、私の目の前に甚兵衛羽織のみを身に纏った黒髪の天狗が私の前に降りたった。その天狗は私の顔を見て一言。
「人間がこんなところで何をしている? 死にたくなければ早々に立ち去ることだ。ここには人食いの妖怪ならば事欠かんからな」
「事の成せぬ命に興味はないわ。私は新聞をつくるために機材の在るここに来たの。人の生はあまりにも短い。事を成すには思い立った時点で行わなければ成し遂げるのは難しい。いずれいずれと待ちに待って、成せぬ生なら私はいらない!!」
 天狗は私の言葉を噛み締め、そして笑う。
「そうか、そうだな! 人間にしては中々見所のあるものだ! だが、見所があるからと言って早々と通すわけには……。ん? ちょっと待て、お前はもしや御山速水と言う名か?」
 私はその言葉に黙って頷くと、天狗はしばし何かを考え、こちらを振り返る。
「なるほどな。噂には聞いていたが、まさかこの様な者だったとはな。では速水よ。お前は何を以て新聞を作らんとするのだ? その問いの答えによっては私が上に口を利こう。なんならば私がそのまま手伝っても構わん」
「私が変わる切っ掛けとなったこの新聞が切っ掛けで始めたことで、私が忌避した能力を活用できることだったってこともあったけれど、今、私が新聞を作ろうとしているのは、それが今の私にとって一番やりたいと思えることだから。だからこそ、私は新聞が作りたいと思う。何よりも私自身の為に」
 私は、手提げから「文々。新聞」を取りだしながらそう言う。天狗はその言葉を聞きニヤリと笑う。
「いいだろう。色々あったみたいだが、そんなのはどうでもいい。それだけの覚悟があれば十分だ。にしても、その切っ掛けがこれか。射命丸の奴もあれで色々と楽しませてくれる」
「射命丸?」
「その新聞を作った天狗さ。さて、どうする? 適当な奴にそのまま口添えしても構わんが、私はお前に興味がある。出来ることならばそのまま手伝いたいとは思っているが、どうだ?」
「では、お願いします。新しく会った人と慣れる手間を考えれば、このまま貴女とやった方が効率的ですからね。それで、何と呼べばいいのでしょうか?」
「私か? そう言えば名乗ってなかったな。私の名は風見出雲。風見でも出雲でも好きに呼べばいい」
 彼女はそう言ったが、私は丁度彼女の隠匿された情報を引き当ててしまい、それを口にしてしまった。
「……荒王?」
 彼女は一瞬非常にうろたえたが、即座に平常に戻り、こちらを睨みつけてくる。
「噂通りの情報通のようだな。ただし、その呼び名をするな。後、私の本名も呼ぶなよ?」
「はい、わかりました」
 私は頷いた。無駄に藪を突いて蛇を出す必要は今はないのである。それよりも今は彼女の後を付いていき、新聞を作る方が先決だろう。
 後日出された新聞は相も変わらず盛況で、定期購読を申請しようとした者たちが沢山いたが、私は定期購読枠を作らなかった。私の作る新聞は、人々が程よく新聞を望むときに作ることで通常時では買わない人たちも買うように仕向けているので、定期購読枠は逆にいろいろと面倒だったわけである。


 その後、私は出雲と一緒に幾度となく新聞を出し、その度に多くの盛況を呼び、私の新聞は、最早知らぬ者はいないほどの知名度を生み出していた。しかし、それにより、不定期更新かつ、余り身の無い「文々。新聞」の知名度がものすごい勢いで下降し、存在すら忘れている者たちが増加してしまったのである。
 私は驚愕し、そして動揺した。私の新聞のせいで、あの人(どんな人なのか知らない)の新聞が日の目を見なくなることは嫌だったので、私は様々な案を考えた。そして、それを出雲に話し、また、様々な案を考えた結果。私は一つの結論にたどり着き、それを実行することにした。その案とは……。


不定期新聞「はやみのへや(名称案提出者出雲)」の作者コメントより抜粋
「私、「はやみのへや」製作責任者である御山速水は今日より、「文々。新聞」製作者である射命丸文をライバルとして認識し、持てる力の全てを以て応対する所存であります。この新聞を読んでくださった読者の方々には、変わらぬご愛読を願いたいものです」


「ふぅ。こうやって私がライバル視すれば、相手は優秀なものだと思ってくれるでしょう」
「案に射命丸を下に見ている辺り、やはり大物だな速水は。全く可愛い奴だ」
「? それはそうと、その姿を書かずに会話の部分だけ抜粋しているせいか出雲の事を男性だと思っている読者が多いみたいですよ? まぁその方が受けがいいので放置してますが」
「全く、本当に恐ろしい奴だ速水は。それすらも狙いの内なんだろう? それならば私は別に構わない。好きにやってくれ」
「はい。そうさせてもらいますね」
 私はそう言って記事の案を構成する。次はどんな話が盛り上がるだろうか。やはり、受けで狙うならば紅魔館関連だろうか? 最近は小悪魔と大妖精、それと本読み妖怪の三角関係や増え続ける小悪魔について一筆記してみるのもいいかもしれない。もしくは……、私の勘でしかないが、そろそろレミリア・スカーレットが何かを起こす気がする。もし、それが起きればそれはきっととても面白い記事になるだろう。だったら、それは射命丸さんの為に残しておこう。まだ見ぬその姿に思いを馳せ、私は出雲と一緒に帰路に発った。

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