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秋葉山 朱里SS

Last-modified: 2009-07-04 (土) 23:22:31 (3816d)

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「お久しぶりね慧音さん」
「そんな堅苦しい挨拶はなしだ。久しいな朱里」
 人里のとある民家の中、上白沢慧音と秋葉山朱里は向かい合っていた。
「全く、あのときは驚いたのだぞ? お前が攫われたと聞き、馳せ参じたが、まさか攫ったのが天狗だったとはな。お前は人気があったから、里の者を抑えるのが大変だった。
 一年経ったときはもう死んでいるものだと思っていたが、次の年に戻って来たのだからな。もう少し早く報告してくれればこっちも楽だったのだが」
「無茶言わないで。最初の方は実質監禁みたいなものだったんだから。そもそも人間が単身であの山を下れる訳もないし」
 朱里は最初に逃げた時の事を思い出してため息をつく。
宴会の日に無駄に元気になる舞を舞い、天狗たちが疲れてきたあたりで逃げだしたのだが、逃げ始めてすぐに椛という名の白狼天狗に捕縛された。ついでにその際、「自分以外にも見張っているものがいますので、どうか安易な行動はなさらないように」と釘まで刺されたのである。
「でもまぁ、慣れるといい場所だったわ。半年も一緒に暮らしてたら向こうもこっちを仲間みたいに扱ってくれたし……下手をすれば慧音の言った通り死んでたかもしれなかったからね」
「そうだな、無事でよかった。さて、そろそろ本題に入るが」
「例大祭の舞姫になって欲しい……だったかしら?」
 例大祭とは、博麗神社で行われる、人妖入り乱れた祭りの事である。人も妖怪も様々な出し物や屋台を出し、その日は妖怪も人を襲わず、ただ陽気に祭りを楽しむ。
「今年は家族で楽しもうと思ってたんだけど……舞姫だとあまり動けないのよね」
 舞姫は、人々を楽しませる舞を舞うこと以外にも、神々に例大祭の陽気を踊りを介して奉納しなければならないため、ただ踊りが上手いだけの者では成り立たない。そして、神々が退屈しない程度の頻度――大体一時間からニ時間ごとに簡単な奉納の舞を舞わなければならないため、あまり動くことができないのである。
「今回は無理にとは言わん。ただ、私はお前を推す。出来ることならばやってもらいたい」
「全く、慧音はずるいわね。そんなこと言われたら断れないじゃない。いいわ、やってあげる」
「すまないな……っと、これは別件だが……」
 慧音はそう言って一枚の紙を朱里に渡す。朱里はそれに目を通し、
「『第15回歌って踊れる幻想郷のアイドルコンテスト』? 何これ? こんなコンテスト14回もあったかしら?」
「いや、実質第一回らしい。そして内容は文字通りだ。幻想郷の歌って踊れるアイドルを集めてコンテストをするらしい」
「……で? 慧音は私にこれに出ろって言いたいの?」
 名前からしても胡散臭すぎる。エントリー期間が当日の0時までだし、そもそもこれって出た時点で、自称アイドルの烙印押されるんじゃないかしら?
「私は別にどちらでも構わない。ただ、これは湊からお前に渡してほしいと頼まれてな」
「湊が?」
 湊とは、朱里の娘である秋葉山湊のことである。半妖ながらに高い妖力を持ち、射命丸文に憧れ、いずれは幻想郷最速の座を奪おうと努力している朱里の最愛の娘なのだが、
「湊がいったいどうして私をこんなのに出そうとするのかしら?」
「湊は両親が自慢だと言っていたからな、他の皆にも知ってもらいたいのでないかと私は思った。それに、お前なら歌って踊る事は出来るだろう? 参加条件は満たしている」
「う〜ん……他ならぬ湊の頼みだし、ちょっと考えておくわ」
 とりあえず、無難に逃げることにした。まぁ、もしかしたらやるかもしれないけど。
「それはさておき、他は特にないわね? 例大祭まで一週間切ってるんだから、あるんだったら今のうちに言っておいてよ?」
「先ほどのを除いたらもうないな。作業も殆どが終わっている。問題が起きなければ何事もなく当日を迎えるだろう」
「そう? じゃあ私は帰るわね。何かあったら連絡入れればいいから」
 朱里はそう言い人里を後にした。


 人里から離れて数刻、朱里は自宅へと辿り着く。
「ただいま〜。湊いる〜?」
 玄関に入りそう言うと、バタバタと音を立てて湊が駆け寄り、朱里に抱きつく。
「ママお帰りなさいっ! 聞いて聞いてっ!! 湊ね、今日も駆けっこで一番だったのっ!! 今日は大人の天狗も抜いたんだからっ!」
「そうなの? 凄いわねぇ……能力は使わなかったのよね?」
 湊の能力は相手より少し早い速度を出せる程度の能力。故に、湊が能力を使用すれば、湊に速度で勝てる者はいないのである。
「勿論だよっ! 湊いつか自前で文さんを抜いて幻想郷最速の座を手にするんだからっ!!」
「ちゃんとしてるのね。偉いわ。……ところで湊? これは何かしら?」
 朱里は先ほど慧音に渡された『第15回歌って踊れる幻想郷のアイドルコンテスト』について書かれた紙を湊に見せる。それを見た湊は顔を綻ばせ、
「ママ出るの!? 出てくれるの!? やった!! けーねさんに頼んだ甲斐があったよ〜!!」
「出るかどうかはまだ決めてないけど……実際これは何なの?」
「これ? 普通にコンテストするだけらしいよ? 水着審査とかもないみたいだし、他には――」
 湊が大体の概要とコンテストのスケジュールを言う。参加者が歌ったり踊ったりするのを見て点数をつけるだけのシンプルなものだった。
「案外普通なのね。何かもっと凄いのを想像してたわ」
「うんうん。でも、ママだったらポロリがあるから大丈夫だよね!」
「……まさかこの年になって、娘に母親のポロリ(人前で)を期待されるとは思わなかったわ。まぁ、アメノウズメに奉納しない舞だったら大丈夫だけれど」
 湊が不満いっぱいの顔でこっちを見てたけど無視しておいて、台所に行って夕飯の下準備を始める。
「そう言えば、お母さん例大祭で舞姫することになったから、当日はお父さんと二人で回るかお友達と回っててね」
「うん……わかったよ。ママが凄いんだってところをみんなに見せたかったのに……」
「ちなみにお父さんは知ってるの? このこと」
「うん。パパはママさえよければいいって言ってた」
「はぁ、仕方ないわね。時間が合えば行ってあげるわ。これでいいんでしょ?」
「えっ? ほんとっ!? やったー!! みんなにママを自慢するんだから〜!!」
 湊の満面の笑みを見て、朱里は「まぁ仕方ないか」と諦めた。
「とりあえず、夕飯よ。それに例大祭までまだ五日はあるんだから、今から張りきってたら当日持たないわよ」
「わかってるけど〜……やっぱり楽しみなんだもん! 時間がパッと過ぎればいいのに……」
「いくらなんでもそんなこと――」




                時間がパッと過ぎる




 例大祭当日。
「例大祭だー!! 今日は目一杯楽しむぞー!!」
「えっ!? 本当にパッと過ぎたの!?」
「そんなのどうでもいいよママ。それよりもママは舞姫じゃなかったの?」
「もうそんな時間なのっ!? じゃあ、お母さん今から行ってくるから!」
 朱里はそう言い、人里まで駆けだす。数刻後、慧音の家にたどり着く。
「はぁ……はぁ、ご、ごめん慧音……ちょっと遅れたわ」
「いや、時間自体は丁度だ。それよりも今日の舞姫としてのスケジュールだが――」
 慧音が朱里にスケジュール表を渡す。神々に奉納する舞が大体約三時間置き、後は細々としたタイミングで適当に演目を行えばいいらしかった。
「存外少ないわね。奉納は三時間ごとで大丈夫なの?」
「ああ、それは大丈夫だ。そのぶん一回ごとの密度を少し濃くしてもらう必要があるが」
「わかったわ。それじゃあ行こうかしら」
「そうだな」
 朱里は慧音とともに博麗神社へと向かった。博麗神社に近づくにつれ、祭りの活気と人や妖怪の笑い声が聞こえてきた。
「随分と盛り上がってるみたいね」
「そうだな。さて、それじゃあ私は妹紅の処に行くとしよう」
「確か金魚すくいだっけ? 暇があれば行くわ」
「ああ、そっちは任せたぞ」
 慧音と別れ、神楽殿へと向かう。ついたら衣装室で巫子装束に着替え、神楽鈴を取り、舞台に上がる。すでに、いくばくかの人たちが舞台の前に並んでいる。朱里はその人たちに軽く礼をし、姿勢を正す。
「本日は御越しになった方々へ、誠にありがとう御座います。それでは皆様方、しばしの間、神楽舞をお楽しみください。演目「天の岩戸伝説」 とくとご堪能あれ」
 朱里が舞い始める。始めは荒々しく、だが、途中からテンポがずれてるかのような不恰好さが笑いを呼び、時に淫靡さが漂い息をのませる。どこまでも、見る者を惹きつけるその舞は、見ている物の感情を他の者に伝播しているかのように、次々と観客を増やしていく。
 舞も半ばを越えたころ、朱里の巫女服がはだけ、上半身の肢体が露わになる。それを見た一部男性の歓喜の声が出たが、その男性達は般若の面を付けた謎の天狗に拉致られて連れて行かれた。
 ちなみに、はだけたのは激しい動きをしたからではなく、朱里の祀るアメノウズメが伝承で行ったことなので、朱里もそれをトレースしてしまうという訳である。必ずなるとわかっているので、応急処置的に一応光学式呪式で胸の部分には薄霧のような視覚保護がなされている。
 その後も、しばらく舞を踊り、演目「天の岩戸伝説」は終わった。
「皆様方、長らくの御静聴誠にありがとうございました」
 朱里が礼をすると、周りから割れんばかりの喝采と拍手が巻き起こった。朱里はそれら一つ一つに恭しく礼をし、舞台裏に降りる。
「あ、秋葉山さん。お疲れ様です」
「ありがとう。それじゃあ少し休憩に出るわね」
「はい」
 舞台裏にいた巫女さんに挨拶を済ませ、朱里は出店のある方に足を向けようとした……が、コンテストの事を思い出した。
「そういえば、そろそろ行った方がよさそうね。にしても一体どんなのが出るのかしら?」
 朱里はいろいろ考えながら特設会場に向かった。


「こんなにも出場しているのね」
 特設会場の控室には10〜20数人の人間や妖怪などが今か今かと待ちわびていた。聞いたことのあるような妖怪から、見たこともない何の妖怪かもわからないような者までいた。
 会場から司会者の声が聞こえる。
「それでは『第15回歌って踊れる幻想郷のアイドルコンテスト』を始めます!!」
ワーー!! ワーー!! ワーーー!!!
 会場の熱気は控室にいる朱里に届くほど凄まじいものだった。朱里が熱気に怯んでいるうちに、数人がすでに紹介を終えていた。
「では次! エントリーナンバー○番 「天神楽の巫女」秋葉山朱里さん! どうぞ〜!!」
 司会者の呼ぶ声が聞こえる。朱里は立ち上がる。参加すると決めた以上目指すは大賞。例え先に、後にどれほどの者がいようとも、自分を信じていくだけだ。
 朱里はそう思い、自分を信じ舞台へと進み始めた。『第15回歌って踊れる幻想郷のアイドルコンテスト』大賞に選ばれることを夢見て……。


『第15回歌って踊れる幻想郷のアイドルコンテスト』決着編へと続く?

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