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上草杏莉,上草美月SS

Last-modified: 2009-06-14 (日) 15:01:02 (3834d)

SS本文

わーにんぐわーにんぐ。此処から先は若干グロ注意。ウォーニングウォーニング。


Erinnerung
或いはとある悪人から見た一夜の出来事


何故……こんな事になったのだろうか。
途中までは上手くいっていた。いっていたんだよ。あの時までは……。




時刻は丑三つ時。虫の声すら止み、無音の闇が広がる世界。
空には満月が静かに輝き、しかし流れる雲が度々その光を阻んでいる。
そんな中、男が1人茂みに隠れていた。手に何かを持っていて、ソレは月の光を受けて鈍い光を放っている。
男は空を見上げ
「いい夜だ……」
そう呟くと口の端を歪め、男は歩き始めた。
男が去った後、そこにまた別の誰かがやって来た。
その誰かは、男が進んだ道を黙って見つめていたが、やがて男を追うように同じ道を歩き始めた。




始めのうちは順調だったさ。
目星をつけておいた家まで向かい、いつもの様に忍び込んで金目の物を奪う。
もし家人が目覚めて邪魔するなら殺す。唯……それだけの筈だったんだ。




ガタガタと、小さな音を立てて戸を開ける。月が雲で隠れたのか、何処までも暗い空間が続いている。
起きている訳が無いが、確認のために聞き耳を立てると、すぅ……と寝息が静かに響いている。
俺は、出来る限り音を立てないように家に侵入した。
邪魔すれば殺すとはいえ、面倒は出来るだけ避けたい。騒げば人も集まってくる訳だから。




あぁ、今日はツイてない。久しぶりハズレを引いちまった。たいした物が何一つありゃしない。
そんな事をその時は考えてたんだ。でも――違った。本当にツイてなかったのはそんな事じゃなかったんだ。




「おじちゃんたち……だれ?」
唐突に背後から声がした。振り向くと、5歳ほどの少女がこちらを見つめていた。
突然の事態に一瞬動揺し、しかし子供なら容易く騙せると思い声をかけようとした。
その時、雲が晴れたのか月の光が隙間から射し込み――手に持っていた刃物に当たり鈍い光を放った。




その後は散々だった。ガキが大声で悲鳴を上げやがるから、親が何事かと飛び起きてこっちにやって来るわ、ガキの父親が殴りかかってくるわ。
まぁ、こんな事は極稀にあったからいつも通りに殺す事にしたんだがよ。




ぐちゅっ
と、刃物が肉を断ち切る音が響く。俺の手に握られた刃物は男の喉の皮膚を破き、口からごひゅ、と血と空気があふれ出てくる。
ずずっ……ずずっ……と刃物を引き抜いていく。完全に引き抜くと、ごぼっ、と傷から空気が血と共に流れ出ていき、男はそのまま床に倒れた。
「ったく、しちめんどくせぇ……」
そう毒づきながら足元に転がる少女の父親を見る。まだ微かに息があるのかひゅー、ひゅー、と喉を鳴らしている。
その傍で母親が父親の肩を掴んで何か叫んでいる。その隣では少女が大声を上げて泣き叫んでいた。
俺は深いため息をつき、刃物を握りなおす。これ以上騒がれるのは面倒だ。
そう思い、俺は刃物を振り上げ、母親の首を切り裂こうと、思い切り刃物を振るった。




本当ならあのガキには何もしないつもりだったんだぜ?俺だってそこまで非道な人間じゃねぇからな。
だってのに、あのガキ。自分から飛び込んでくるんだぜ?ギリギリの所で手を引いたから傷は浅かったんだがよ。参るぜまったく。




「―――――っ!」
背中を切りつけられた痛みから、少女が声にならない悲鳴をあげる。
鮮血が辺りに飛び散り、周囲の血の濃度を上げていく。
咄嗟の行動。少女は母親を護ろうと、母親のくび元に抱きつき、その身を盾にしたのだ。
しかし、子供にはその痛みを耐える事など出来るわけも無く、少女は父親の体に覆いかぶさるようにして倒れこんだ。
「あー……クソったれ。また邪魔しやがって」
悪態をつきながら、俺はまた母親の首に狙いを定める。少女は気絶したらしく、今度は動かない。
そして俺は、ただひたすらに恐怖に体を震わせている無抵抗なその首筋に、刃物を突き立てた。




本当ならここで終るはずだったんだがな……。不幸な事ってのは続くもんだ。
殺すのに手間取った事か、ガキに見付かった事か、それともこの家を選んだ事か。
まったく、何処で間違えたんだか……。あんなのと遭遇するなんてな……。




突然、壁が破砕音を立てて吹き飛んだ。
驚いて吹き飛んだ壁に目をやると、
“異形の物が立っていた。”
ソレは何も言わず、こっちに向かって歩いてきた。俺は思わず
「な、なんだテメェは!」
と、手に持った刃物を向け、叫んでいた。しかし異形は答えずに、ゆっくりとこっちに近づいてくる。
誰かなんてのはとっくに分かっている。この世界でこんな芸当ができるのは、ほとんどが人間以外の生き物だ。
そしてそいつ等は多くの場合、人を食らう。
逃げなくては!そう感じた俺は足を動かそうとし、しかしそれより早く
ぶつっ ぐちゃ
と嫌な音がした。
瞬間、脳髄を焼くような恐ろしい痛みが全身を駆け巡った。見れば足が引き千切られ、その足を異形が持ち上げていた。
「っ!?ぎっ……がっ、ああああああああああ!!」
噴水の如く血が噴出し、喉からは正常な人間が出せないような絶叫が迸る。
まだ距離があった筈なのに、どうして!?しかし、激痛はその思考をかき消し、痛み一色に塗り替えていく。
痛みにのた打ち回り、叫び続けていると一瞬、異形と目が合った。すると異形は口角を吊り上げ、手に持った俺の足を自らの口元に持って行き、それが当然であるかのように食い千切り、咀嚼し始めた。
嫌悪感が心を埋め尽くし、しかし直ぐにそれは恐怖へと変貌した。
「―――――――。」
肉体を痛みに、精神を恐怖に支配された俺に向かって、異形がなにかを呟く。だがその声は絶叫に掻き消えていった。
「ぐっ、ぁ……はーっ……はーっ……」
体から血の気が引いていく感覚。だんだんと思考に靄が掛かり始め、体が死に近づいていく。
しかし、意識が深い闇に沈みそうになった途端、異形は俺の両手を掴み――引き千切った。
そして、先ほどと同じように口に入れ、咀嚼し、嚥下する。
覚醒する意識。更に痛みが加算され、俺は肺の空気を全て吐き出すような叫びを上げる。
再び異形が何かを呟く。だが、やはりそれは絶叫に掻き消えていった。
途端、異形が俺の頭を鷲づかみにし、上に持ち上げる。
「あ、がっ……っは……ぐっ……」
足が地に着かぬほどに高く持ち上げられ、首だけで体を支える。本来なら、相当な痛みがある筈だが、もはや何も感じない。
すると異形がこちらに顔を近づけてきた。そして
「不味い」
そう一言呟くと、手に力を込めて行く。
「ひっ……」
力が込められる度にミシミシと骨がきしむ音がする。爪が皮膚に食い込み、頭蓋にまで到達し、そのまま砕いていく。
「あ、あ……ああああああああああああああ!!」
ぐしゃり、と骨と肉を砕く音が一瞬聞こえ、俺の意識は完全に消滅した。




一体、どこで間違えたんだかね。まったく。アンタはどう思う?
俺は目の前の女に聞いてみる。
女は何も答えず、ただ船を漕いで行った。

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