雪国 舞姫(第38回)_SS
Last-modified: 2009-11-03 (火) 13:57:35 (5285d)
SS本文
■僕○第38回
「茸の観察日記 茸がトーナメントに参加するまで。……重要そうなところのみ抜粋」
×月13日 晴れ
実はとある事情の下に、茸の観察日記を再開したいと思う。……と、言うより、これを描いている現在では既に再開しているわけだが、まぁそこはいいしよう。
勿論再開したのには理由がある。って、先に事情の下って書いてるが気にするな。その理由――事情とは、茸が今月末に神社で行われる宴会の余興である『秋の味覚! 美味しそうな妖怪妖精トーナメント!』に参加することになったからである!
これは、何やら面白そうな予感がする。ああ! とても予感する! と言う訳で観察日記をつけることとする。
今回も、前回と同じく、高倍率双眼レンズと「雑音の入らないクリアな音質」をウリにした集音機を手に情報を集めていくつもりだ。ふふふ、どんな姿を見せてくれるのか……今からでもわくわくしてしまう。
×月14日 晴れのち曇り
茸は朝早くから行動を起こしていた。複数種の茸、他木の根を粉にしたもの、動物の干し物、草花を磨り潰したものなどを鍋で煮込み、出来た液体を布のようなもので濾した後、陰干ししてから、丸く固めて丸薬を作ったりしていた。他にも、様々な組み合わせをしては、乾かして丸薬を作るといった作業を繰り返し、この日を終えた。
×月16日 雨
2日間続けていた丸薬作りは、ただの薬師としての仕事だったらしい。
今日は、人里に下りて薬師としての仕事に専念していた。途中、永遠亭の兎と何やら資料の交換をしていたが、内容まではわからない。恐らくは薬の効能についてか、もしくはカルテか何かだろう。流石に、いくらレンズが高性能で文字が読めても、意味がわからなければ役に立たないこともあると悟った一日だった。
×月20日 晴れ
ふむ。こうして茸の日常を見ているわけだが、ふと私は例のトーナメントがどういう形式で行われるのかを知らないことに気付いた。それを知らないことには、実は茸の行っている些細なことが、トーナメントに関わる重要な何かかもしれないのを見逃してしまう可能性がある! と、悟った私はすぐさま調べた。どうやら、対決は『香り』『味』『季節感』の三種類で勝負するらしい。
成程、これならば、茸も頑張るというものだろう。しかし、気になるのはやはり一点。茸自体が食べられるのか、茸の育てた茸が食べられるのか、そこが問題だ。普通に考えれば前者はありえないが、昔の偉いものはこう言った「ありえないなんてありえない……」と。しかし、茸のことを考えると、やはり後者の方が好ましい。なぜなら、茸はありとあらゆる茸を作り出せるからだ。
……まぁいいか。どうせ、本番になればわかる事だろうし、何よりこの観察日記に書くことでもないだろう。……まぁ、消すのが面倒だからここに書いてある分は残すが。
×月22日 晴れ時々雨所によって曇り場合によっては雪
いよいよ、宴会まで一週間を切った。私自身が参加するわけではないのだが、テンションが上がってくるというものだ。茸は相も変わらず怪しげな薬を作ったり、人里で営業していたりと、普段と変わらない行動をしている。観察日記としては味気ないが、観察している分には、愛らしい姿を見続けられるのだから、そこは問題ないと言っておこう。
さて、いよいよ後一週間だ(大切なことなので二回書いた)! ふふ、楽しませて貰おう。
×月28日 晴れ
いよいよ明日。まさか、このようなことが起こるとはっ!? とか不安を煽るような書き始めをしてみた。にしても、こう振り返ってみると、観察日記と言うよりは、茸を題材にしただけのただの日記のような気もしなくはない。……まぁいいか。
それにしても、いよいよ明日だ。茸は既にぐっすりと眠っている。どういう結果になろうとも、決して後悔しないでほしいと思う。それが私の気持ちだ。まぁ、この日記を茸がリアルタイムで見るわけではないから、これはただの気分なのだが、まぁいいだろう。
全ては明日。そこで決着が付く。
×月29日 極光
さて、宴会まで後数時間。例えそれがどんな結果になろうとも、その結果をここに記したいと思う。
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