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相沢 葵_SS

Last-modified: 2009-09-02 (水) 11:02:08 (5347d)

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僕○第30回


 時は2028年。度重なる温暖化の影響によるエアコンの超過駆動と、電化製品の多様化多量化による蛸足配線の増加により、火災が増えた時代。そんな時代に私は生まれた。
私の名前は相原葵。高校はふざけたことをいう教師を殴った為中退。親は居らず、生活費を稼ぐために荷物の仕分けのバイトをしている。時間の都合を入れやすく、割と給金もいいので助かっているが、バイトではなく正社員にならないかと言われ少々困っている。
別に、正社員になって責任を負う立場になるのが嫌だという訳でもない。ただ、むかつく上司がいた際に、殴らずにいる自信がないだけである。
「はぁ。ったくだるいな。火事かなんかが起きればいいのに」
 私のそんな祈りが通じたのか、遠方に上る煙が上がり、けたたましいサイレンの音が聞こえた。私は居ても立っても居られなかった。
「まだバイトの時間ではあるけど、まぁいいや。クビになったら別の処に行くだけだし、……第一この街にも少し長く居過ぎたし」
 私は遠方に見える煙の出所に向かって走り出した。そして、道すがらの路地で携帯につけている纏のストラップを軽く振るう。すると、ストラップが1m80cm程度のサイズの本物の纏になった。そして、私はさらにその纏を槍術の演舞にように振るい抜く。
「アラインメント・マジカルチェンジ!」
 演舞の最中に呟いた私の言葉に反応し、私の全身を光の粒子が覆う。そして、光が晴れたら私は漆黒のドレスを身に纏った姿となり、常軌を逸した速度で空を駆け、目的の火災の起きたビルへと数分もかからずにたどり着いた。それは20階建てのビルで、14階辺りから燃え始めており、今や屋上付近まで燃え広がっていた。
「これはまた……随分な燃え広がり具合ね。ただビルを潰すだけだと周りに広がる可能性があるわね。……となると」
 私は手に持った纏を軽く小突く。すると、纏は瞬く間に2mを越えるハンマーにその姿を変える。私はそのままハンマーを振り被り、下から抉る様に振り抜いてビルの10階以上を空中にはね上げた。
「後は……、原形を失くすまで殴り続けるのみ」
 私は宙に浮いたビルの上半分を何度も、何度も、それこそ粉微塵となり粉塵爆発が起きるまでハンマーで殴打しまくった。気分が良かった。少しは鬱憤が晴れた。
 この時点で気付いているだろうが、この私――相原葵は魔法少女である。私が持っているこの纏は実は魔法の纏で、その名を「ブレイクガーディアン(砕きて守る者)」と言う。名前の由来とかは私は知らないが、災害が起きているときにこれを振ると、魔法少女になれるという曰くつきの代物である。その際に、持ち主認証もされるらしく、捨てても翌日眼が覚めた時には横に転がっていた。その特性を利用して、今まで都合3回は質に入れたが、最近では纏い自体を質では預かってもらえなくなってしまった。
 まぁ、それはさておき、普段のストレスとか鬱憤を晴らすために魔法少女やってます。その為、魔法少女時は普段やらないようなキャラを演じます(さっきの時は地だったけど)。
「解除っと、随分と時間を食ったわね。どうせ給料日はこないだだったから、そのままばっくれよ。さて、次はどこに行こうかしら」
 私は仕事場に戻らず、適当な不良らしき者から力付くでバイクを奪い取り、当てもなく走りだした。






 私は走っていた。既に使用していた足(バイク)は使い物にならなくなり捨て置いた。だが、止まるわけにもいかず、私は走り続けた。例え、全てに対応することが出来ないとわかっていても、それを成し遂げると決めたから――私は走り続けた。台風の進路を――台風と同速で――。
「全く面倒ね。飛んでいる物体叩いてつぶしたり、土嚢で川とかの反乱を止めなきゃいけないもの。面倒すぎて困ってしまうわ」
 私はそう嘆息しながら、飛んでくる車などをブレイクガーディアンの一撃でスクラップに変え、更にそれを魔法の呪文でちょちょいのちょいと土嚢に変えて簡易式の堤防を創り上げた。他にも、川で溺れかけている人がいれば助けあげたり等と、台風や竜巻においてはやる事が多く、さしもの私も少し疲れ気味だった。
 だからだろうか、川で溺れている子供を引き上げ、岸にあげた時に、風で飛んできた看板に気が付かずに後頭部に被弾し、そのまま川に落ちてしまったのだ。
……………………
………………
…………
……
「う、うぅ〜ん。こ、ここは?」
 仄かに差し込む太陽の光で私は目を覚ました。既に変身は溶け、いつも通りのシャツにジーンズ。そして革ジャンを羽織った姿で倒れていた。
「晴れている――ということは台風は通り過ぎたかここが台風の目ってことね。くっ!? 後頭部に痛み? ここに何か当たって気を失ったわけか。……全く、何て様だ。そんな不注意で災害を止めることが出来なかったなんてな」
 私は自嘲した。確かに、災害を止めると口では言っても、その本質はストレス発散ではある。が、しかし、そんな中にも、確かに守ろうと思う思いはあった。力を持っている者の義務だなんて大層なことは言わない。傲慢だと言われてもいいから、力を持っているという理由から守ろうとした。
「でも……守れなかった。それも力不足などではなく、ただの不注意でだ!!」
 それは、私自身を含めたうえでは力不足とも言えただろう。私自身が未熟だからという理由づけがなされるから。だが……、だが……!!
 だからこそ思い知らされるのだ。私自身の怠慢で、防げるものが防げなかったという事実を、そして、私はその結果を知らない。一体どれだけの被害が出たのかを私は知らない。
「くそっ! このままで済ますものかっ!!」
 失ってしまったものは取り戻すことは出来ない。だからこそ私は、これから起こりえる災害を、私の手に収まる範囲のモノ全てを防いでみせると決めた。




次回予告
 ついに起こってしまった超規模の直下型地震。葵が辿り着いた頃にはすでに辺りは瓦礫の山と避難民でそれはもう凄いことになっていた。
 何とか救助を開始しようと思った葵だが、そこに津波が迫っているという情報が入ってくる。自身の被害によって高台の殆どが崩壊してしまったここにもし津波が襲って気でもしたら、被害はそれはもう凄いことになるだろう。
 だがしかし、だからと言って今この場で助けを求めている人たちを放っておいて大丈夫なのかと悩む葵。もし、完全に防ぐことが出来なかった場合は瓦礫の下に閉じ込められている人たちの生命の危機は必至である。
 悩む葵の前に突如現れた謎の魔法少女。葵に力を貸すと言って協力してくれるがその真意とは一体?
 次回 レスキューヒロインマジカル☆ブルーサンダー葵
 第2話「大災害 巻き起こる大地震と謎の魔法少女」
 地球の明日はどっちだ!?

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