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朝霧 不要_SS

Last-modified: 2010-01-31 (日) 20:55:42 (3605d)

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僕○第66回


 母様と父様がいる。父様は私の事を走って転ばないかと心配そうに見ている。母様は毅然とした姿で私の行動を見ている。下手な事は出来ないな。そう思った。
「おいおい。そんな顔をしてたら不要が緊張するじゃないか。もう少し柔らかい顔は出来ないのか?」
「ない。それより不要。何をしている? その場に留まっていても何も起きんぞ」
 母様は父様の言葉を一蹴しながらも、視線は私の目を貫いている。目の前に流るる小川は小さいが、まだ小さい私にとっては警戒しながら進まねばならぬ道だった。……だが。
「?」
 ふと違和感に襲われる。違和感の覚えるままに父様を見るが、そこには変わらず走って転ばないかと心配している姿が見える。何もおかしなことは――あった。眼前は小川。これを走って進むのは母様でもない限りは不可能だろう。さしもの父様もまだ私にそこまでの期待はしていないはずだ。
 嫌な予感に駆られた私は小川の所々に頭を見せている石を足場に、父様と母様の待つ元へと急いだ。
「父様! 母様!」
 私は何とか流れる川を越え、顔を上げると――そこには廃墟があった。母様はいたが、父様の姿がなかった。
「母様? 父様は一体何処に?」
 母様はしばし沈黙していたが、やがて振り向き、血に塗れた手を私に向け、淡々と言った。
「死んだ。……いや、それは正確ではないか。私が殺した。あの夜、あの場所で、私が殺した」
 いつの間にか辺りは夜となっていた。月のみが浮かぶその夜は、崩壊の序曲を夢想させた。そして母様は私に向けた手から何かを放つ。それは、詳細不明の力、母様と私だけが扱える力、エクスキューター・ヌル。それは不可避の力。それを受けた私は――。


「――ッ!!! ……ここは」
 周囲を見渡し、そして理解する。
「……夢……か」
「随分と……うなされてたわね」
「師匠」
 そこにいたのは私よりも幼い少女。希有な――師匠は運命と言っていたが――出会いをし、焦燥に駆られた私を導いてくれている。名は教えてもらえていないので、私は師匠と呼んでいる。
「……夢とは……、記憶の整理と言われているけれど……貴女の場合ならば、意味も変わる……こともある……」
「意味が……変わる?」
「そう。今の貴方は滅義怒の次に――あるいは同等以上の……超能力を行使できる可能性を……保有している。テレパシーやマインドリーディング……後はプレコグニション。それらが噛み合えば、予知夢という枠を超えた者も……有り得る。……どんな内容だったの?」
「それは……」
 私は躊躇したが、師匠の瞳が目を逸らしても見続けてくるため、遂に観念して内容を師匠に話した。師匠はしばし考えた後に、
「ただの……夢。でも……僅かに予知夢の可能性もある。……そろそろ潮時かも」
「潮時ですか?」
 師匠はゆっくりと頷いた。
「忘却の月から3年。……よく何の文句も言わずに従った」
「……はい。あの時からずっと、師匠の言葉が正しいと信じたからです」
「そろそろ頃合いもいい。滅義怒も休眠状態に入っている」
「休眠……ですか」
「超能力は人間の限界を……超える。……それは、とても危険な行為。下手をすれば、肉体は……崩壊する。滅義怒も例外じゃない。それが今」
 確かに、ここ最近は人の姿を見るようになった。滅義怒――母様の脅威が減った隙に何とか復興しようというのだろう。母様を討つのであれば、確かに今が絶好の機会であろう。
「わかりました。今までありがとうございました」
 私は師匠に礼をし、月御見に向けて旅立とうとしたが、その直前に師匠に止められた。
「師匠?」
「往く前に、一つの理を覚えて……ほしい」
「理……ですか」
「そう。何人も要せず、如何人も擁さず――ただ不ヨウたれ」
「不ヨウ……ですか」
 言葉は理解出来たし、理も理解出来た。ただ気になったのは、自身の名と同じだった言うことだけだが、そこら辺は無視しといて師匠に頷いた。
「心得ました。不ヨウの理、しかと受け取りました」
「頼んだわ……不要」
 私は不ヨウの理を胸に秘め、母様の待つ月御見へと歩み始めるのであった。

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