鳴本 冬,鳴本 白SS
Last-modified: 2009-06-14 (日) 13:30:44 (5401d)
SS本文
はじまりの名は
〜白 side〜
「白ちゃん可愛いーー!!!」
「そう、なのかな。私はあんまり似合っているとは思わないんだけど・・・」
「そんなことないよ!凄く良く似合ってる!むしろ似合わないわけがないよ!」
今日もいつもの朝が始まった。お姉ちゃんはなぜか毎朝私にいろんな服を着せる。今日はチャイナ服だそうだ。前になぜ着せ替えをするのか聞いたところ
「一日の栄養補給よ!」
と答えられた。まぁお姉ちゃんが楽しそうならいいか。私も嫌ではないし。
「さーて、次は何にしようかぁ。うーん・・・」
「お姉ちゃん、今日は早番だよ。もう出ないと」
「え、そうだっけ?」
普段は頼れるお姉ちゃんなんだけどたまに頼りないんだよね。
「そうだよ。ほら、行こう?」
「うぅ・・仕方ないか・・・よっし、今日も一日頑張ろう!」
「うん。頑張ろう」
そう、これがいつもの朝。私がお姉ちゃんの妹になってからずっと続く、いつもの朝。
あの日私は、狭い場所に閉じ込められていた。
動いたり止まったりを繰り返していたから車のトランクの中にいるのだと想像は出来た。だけどなぜそんなことになっているかはわからなかった。
やがて車は止まった。トランクが開いた先には両親の顔があった。
「なんでこんなところに来たの?それにトランクになんか乗せて・・・」
「○○、恨むなよ。全部そんな力を持って生まれてきたお前が悪いんだ」
「どういうこと?ねぇ教えてよお父さん」
お父さんは何も答えず車に乗り込んだ。私も車に乗ろうとしたがドアには鍵がかかっていた。
「お父さん、お母さん。開けてよ。私も・・・」
「○○、お前とはお別れだ。」
そう言うとお父さんは車を出した。
私は捨てられたのだと理解した。両親から嫌われているのは知っていたからあまり驚かなかった。
「これから、どうしよう。もう家には帰れないだろうし・・・」
悩んでいても仕方がない。私はとりあえず山を下りることにした。後のことは山を下りてから考えよう。
しばらく歩いたが灯り一つ見えてこない。そもそも今歩いているのはとても車が通れるような道ではない。
「迷っちゃった、かな。このまま進んでも大丈夫かな?」
しばらく歩いていると急に目の前が開けた。
長い石段があった。石段の上には鳥居が見える。神社らしい。
「ここを降りればどうにかなるよね」
私は石段を降りていった。やがて石段を降りきった私の目に映ったのは先ほどまで暮らしていた町並みとはまるで違う緑に囲まれた野原だった。
「ここはどこだろう?山からは出れたみたいだけど・・」
私はとりあえず野原を進むことにした。ここまで来て立ち止まるのは嫌だった。
「山から出たんだからそのうち人のいるところに着くよね。きっと」
根拠のない言葉を口にしながら野原を進んだ。
ふと空を見上げると満月が浮かんでいた。
「綺麗な月・・今まで見た中で一番綺麗」
「そうだね、今日の月は良い。気が昂ぶる」
「!誰、ですか?」
「誰、か。この近くに住んでいる者。としか言いようがないかな。
それより、お嬢ちゃんはどうしてこんな夜に出歩いているんだい?」
「私は、お父さんとお母さんに山に捨てられて道に迷って・・・」
「そう、それは災難だったねぇ。それじゃ私が人のいるところに送っていってあげよう」
そのときの私は目の前の男の人を疑いもしなかった。その男の人が私に向けていたのは好意だったから。
妖怪が人間に向ける好意の意味など知らずに。
〜冬 side〜
「なんでこんな満月の夜に出歩いてるんだろうな私は」
その日私は家で使う薪が切れかけていたので近くの森まで取りに来ていた。
いつもは夕方には帰るのだが今日はあまり良い薪がなかったから森の奥まで入っていた。
そのせいで夜までかかってしまった。妖怪が活発になる満月の夜には出歩きたくなかったのだが薪がなければ寒くて朝まで耐えられない。
「何も出ないでよね。妖精くらいなら別にいいけど」
私のような戦う力のない普通の人間には満月の夜は恐ろしいものに他ならない。
「ん?あれは・・・女の子?どうしてこんな時間に出歩いてるんだろう。それに里にあんな格好した子いたかな?」
私がその子を眺めていると一人の男性が女の子に近づいていった
「あの男の人も見たことないなぁ。あの子の知り合いかな?」
私は近づいてみることにした。
それがすべての始まりだった。
〜白 side〜
「あの、ここから人のいるところって遠いんですか?」
私は男の人に尋ねてみた。あまり遠いのなら少し休みたかった。歩き始めてからどれほどの時間がたったかはわからないが足が痛くなる程度には歩き続けていた。
「ん?そうだね、あと半刻ほどはかかるかな」
半刻というのは聞きなれない表現だったがこの間の授業で習ったのだと一刻が二時間だから半刻というと一時間も歩くことになる。
「あの、私ちょっと疲れちゃって。少し休ませてもらえませんか?」
「あぁ構わないよ。それじゃそこの岩のところで休もうか」
私と男の人がしばらく休んでいると私より少し年上くらいの女の人が近づいてきた。
「こんばんは。こんなところでどうしたんですか?こんな夜は早く家に帰ったほうが良いですよ」
「やぁお嬢さん。こんばんは。この子が道に迷ったらしくてね。送っていってあげようとしているのさ」
男の人が答えると女の人が不思議そうな顔をしている。
「送って、ですか?なら何故こんなところで休んでいるのですか?もう里はすぐそこなのに。それにさっき里とは逆方向に向かっていましたよね?」
「え?」
どういうことだろう。私が男の人の方を向こうとしたら
「ふぅ、もう少しだったのですけどね。まぁいいでしょう。今日の獲物が増えたと思えば」
獲物?どういうこと?気づいたときにはこの人から感じるのは好意ではなく敵意へと変わっていた。
「こっちへ来て!早く!」
女の人が叫ぶと同時に私は岩から離れた。その直後に男の人の手が岩を破壊した。
「ちっ。大人しく喰われちまえばいいものを。どうせ逃げられやしないんだからな」
女の人が私の手をつかんで走りながら言う。
「あれは妖怪です!はやく逃げなきゃ!」
妖怪?この現代に?そんなものがいる?その非常識な状況に私の頭は何も考えられなくて、ただ走った。
「もう少しで里に着きます!里の結界の中に入れば・・・」
灯りが見えてきた。あれがこの女の人の言う里なのだろう。でも山を歩き続けて疲れきった私の足はもつれて転んでしまった。
「早く立って!逃げないと・・・」
女の人が叫ぶ。でもあの男の人はもう追いついてきていて。
「さぁ、追いかけっこはお終いだ。大人しくしてもらおうかな」
いままで受けたことのないほどの敵意。私は殺されるのだと思った。そのときだった。
「なんでこんな夜にあんたみたいな人間が出歩いてるのよ。まったく」
その人は空からおりてきた。月の光を受けた赤と白がとても綺麗だったのを覚えている。
「そっちのあんた。こいつを連れてさっさと里まで逃げなさい。この妖怪は私が退治しておくから」
「は、はい!ありがとうございます!」
女の人はさっきと同じように私の手をつかんで里まで走り出した。
そうして私たちは無事里の中に着くことが出来た。
「ここまでくればもう大丈夫だよ。博麗の巫女さんも来てくれたし」
「あの、ありがとう」
「うぅん。無事でよかったよ。でもどうしてあんなところに一人でいたの?」
私はこの人になぜここにいるのか話してもいいのか迷った。
この人からは好意も悪意も感じなかったから。
話を聞いたこの人が私をどうするのかわからなかった。
それでも私を助けてくれたこの人には話しても良いかもしれないと思った。
「私、お父さんとお母さんに捨てられたの。それで山を下りようとしてたら石段があってそれを下りたらさっきの男の人に会ったの」
「石段?それじゃ神社のあたりからかな。でもわざわざあのあたりに子供を捨てに行くかなぁ?んー・・・あ、もしかして外の世界から来たのかな」
「外の世界?どういうこと?」
「ここはね、幻想郷っていって結界で隔離された場所なんだ」
隔離?そんなことあるわけが・・・そう思いかけてさっきの男の人が岩を砕いたのを思い出した。もう非常識なことなら出会っている。
「そう、なんだ。でもこれからどうしよう。家もないし食べるものもないし」
「ん・・・じゃあ私と一緒に暮らさない?私も一人だし放っておけないもの」
「でも迷惑でしょ?」
「そんなことないよ。私ずっと一人で暮らしてて寂しかったんだ。だから一緒に暮らそう?私の話し相手になってくれると嬉しいな」
この人はどうして見ず知らずの私にそこまで言ってくれるんだろう。
「でも、やっぱり・・・」
「ねぇ、どうしてあなたはお父さんとお母さんに捨てられたの?」
私の言葉をさえぎって女の人は聞いた。
「私、人が人をどう思ってるかわかるの。好きだなとか嫌いだなとかその程度だけど。だからお父さんとお母さんは私を気味悪がって捨てたの」
私は続けて聞いた。
「あなたも気持ち悪いと思うでしょう?だから・・・」
「そんなことないよ。あなたの力なら私がどう思ってるかわかるでしょ?」
その言葉通り悪意は感じなかった。それどころか好意を持っている。なぜだろう。
「ね?だから、私と一緒に暮らそう?」
今まで私の力を知って悪意を向けない人間はいなかった。誰もが私を気持ち悪そうな目で見た。なのにこの人はいままでの誰とも違った。信じてみたいと思った。
「本当に迷惑じゃない?」
「もちろんよ。」
「あの、それじゃ・・・よろしくお願いします」
「うん。よろしくね!私の名前は鳴本 冬。それで、あなたの名前をどうしようかな」
「私の名前?私は○○・・・」
「違うよ。今日からあなたは私の妹なの。だから新しい名前にしなくちゃね」
新しい名前。今までの自分とお別れして新しい自分になるための名前。
「よし、じゃ私の名前の冬イメージと新しいあなたということで白にしよう。今日からあなたは鳴本 白よ」
「鳴本 白・・・」
「あれ、気に入らなかったかな?」
「ううん、そんなことない。可愛くて嬉しい。ありがとう。・・・お姉ちゃん」
ここから私、『鳴本 白』の人生が始まった。
これからずっと続く私の毎日。
〜end〜
番外
My Sweet Sister
鳴本 冬がシスコンになるのは白といっしょに暮らして三日後のことであった。
その日、冬は悩んでいた。
「う〜ん、白ちゃんって妙に大人びてるなぁ。甘えたりとかしてくれないし。まだ遠慮してるのかなぁ」
「お風呂も一人ではいるし寝るときも一人だし。私じゃ甘えられないのかなぁ」
もともと白はなんでも一人でこなす子だった。外の世界にいた時に愛情を受けずに育ったことが関係していた。母にも父にも甘えず育ったものだから甘え方というものがわからなったのである。
「よし、今日は私から白ちゃんにぶつかってみよう!」
姉がそんなことを考えながらバイトから帰ってきたことも知らずに白はお風呂をわかしている。
「お姉ちゃん、お風呂沸いたけど先に入る?」
(これはチャンスよ!)
「白ちゃん、どうせだから一緒に入りましょう」
「え?いいけど、どうしたの急に」
「姉妹のふれあいよ。昼間は仕事でなかなか時間が取れないし」
「うん。お姉ちゃんがそれでいいならいいよ。じゃあ入ろうか」
「白ちゃんの髪長くて綺麗な色ねぇ」
「お姉ちゃんの髪も綺麗だよ。すごくサラサラしてる」
「そうかなぁ、でも嬉しいわ。 そうだ、今日は私が白ちゃんの髪の毛洗ってあげる」
「えぇ、いいよ。一人で洗えるよ」
「まぁまぁいいじゃない。ほら座って座って」
(多少強引だけど仲良くなるにはとにかく関わっていかないと)
「それじゃせっかくだからお願いしよう、かな」
「うん。任せて。あ、下手だったりしたら言ってね」
〜少女洗髪中〜
「これでいいかな。どうかな?白ちゃん」
「うん。すごく気持ちよかったよ。ありがとうお姉ちゃん」
(!白ちゃんが笑った。初めて笑ってくれた)
「白ちゃんはじめて笑ってくれたね。良かった。ほんとは私と暮らすの嫌だったんじゃないかって不安だったんだ」
「そんなことないよ。ただちょっと・・・恥ずかしかっただけ」
「そんなに恥ずかしがらなくても良いよ。私は白ちゃんのお姉ちゃんなんだからもっと甘えてくれて良いんだよ?」
「うん・・・すぐには無理かもしれないけどこれからはちょっとだけ甘えてみる」
(良かった。これで少しは白ちゃんと仲良くなれた、かな。それにしてもさっきの笑った白ちゃん可愛かったなぁ)
「うん、遠慮しないでどんどん甘えてね。 さて、そろそろあがろうか」
「うん、わかった」
この時点ではただ可愛いなと思っただけであった。本格的なシスコンへの芽生えはこの日の夜に起きた出来事が原因であった。
「それじゃそろそろ寝ようか」
「うん・・あのね、お姉ちゃん」
「ん?どうしたの?」
「あの、一緒に寝ても良い?」
「え?それはもちろんいいけど・・・どうしたの急に?」
「えっと・・・じつは私こっちに来てから一人で寝るのが怖いの。あっちの世界ではいつも一人で寝てたのに」
(そりゃ白ちゃんもまだまだ子供だもんね)
「うん、いいよ。それじゃ一緒に寝ようか」
「うん。ありがとう、お姉ちゃん」
そうして一緒に寝ることになった。
「それじゃお休み、白ちゃん」
「お休み、お姉ちゃん」
(白ちゃん、今までずっと一人でいろんなことに耐えてきたんだな。これからは私が白ちゃんのそばにずっといてあげよう)
「・・・・お姉ちゃん」
「?どうしたの白ちゃん?」
「・・・・・・・」
(寝言か。疲れてたんだろうな)
「お姉ちゃん・・・・大好き」
(!!今、私のこと大好きって言った?)
「白ちゃん、寝てるの?」
「・・・・・」
(寝てるか。でも白ちゃんはこの短い間一緒にいただけの私を大好きって言ってくれた。ほかの誰が白ちゃんを愛さなくても私だけは白ちゃんを愛そう。私だけはずっと白ちゃん の家族でいよう。白ちゃんが泣くことのないように。これからもっと白ちゃんを好きになろう)
その日の誓いは今も守られている。ただ少しばかり愛の方向性がユニークな方向に行ってしまっているが。
〜番外end〜
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