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燻羽 鴉・黒峰 緇祁_SS

Last-modified: 2009-09-09 (水) 14:04:10 (3602d)

SS本文

僕○第32回


 まどろみの中、緇祁は頭の中に直接響く声を聞いた。
(緇祁? 聞こえる? 緇祁?)
(どうした? そちらから声をかけるとは珍しいな)
 相手が誰だかはわかっている。もう一人の自分とでも称するべき存在である緇祁の姉――燻羽鴉である。
(身体を……この身体を一月貸してほしいの)
(何故だ?)
(……想いを――想いを伝えたいから……。そして、私は負けたくないの)
(……あの男か)
(……うん)
(そうか。……それで、一月でいいのか?)
(!! ……いいの?)
(構わん。後悔の無いようにな)
(ありがとう。緇祁)
(気にしなくて構わんよ。姉さん)
 緇祁は意識を込め、自己の身体を制御し休眠する。一つの存在に二つの身体を有する特異な存在である彼らは、交互に表に出ているのだが、片側が休眠すれば、もう片側が長く表に出ることが可能なのである。
 そうして緇祁は眠り、それと同時に男性の身体が女性の体に変わる。鴉が目覚めたのである。
「待ってて……ライル」
 鴉はそう言って、音もなく部屋から出た。




 魔法学園ウォザーブルグは長い歴史を持つ、ハンター(魔物を狩る者)を育成する場所にして、高密度の魔力結晶「賢者の石」が保管されている場所である。
 私達の当初の目的は賢者の石を入手し、それを媒介にしてホムンクルスを作り、それをどちらかの身体とする事だった。
 しかし、調査中にライル含む学生数メイトの戦闘に敗北し、強固な封魔呪具を複数付けられた上でこの学園の生徒にさせられてしまった。それ自体は、この学園の2名以上6名以下のパーティ行動の制度による、常に誰かの生徒に見張らせるといった理由であった。
 そんな中で、しばらく学生として様々な課題をこなし、冒険をしているうちに、私は良くパーティを組むライルを好きになってしまった。だが、ライルは人気があり、また、この学園の男女比が1:9を越えていたりするので、常にライルの周囲には他の女性がいた。
 また、そんな有象無象は置いといても、ライルには幼馴染がいて、そいつもライルのことが好きということなので、決着をつけるために、緇祁から時間をもらったのである。
「という訳で決着をつけるわよ。シンシア」
「構わないわよ。貴方とはいずれ決着をつけないといけないと思ってたしね」
 私の前に悠然と立ち塞がるのは、先ほど言ったライルの幼馴染であるシンシア・エルシエイト。だが、私も臆さず真っ直ぐにシンシアの目を見て言い放つ。
「それで、決着はつけようとは思うけれど、何で決着をつけようかしら?」
「そうね。一回勝負だとその場で文句言われるかもしれないし、日を空けた三本勝負とかどうかしら? 内容はその都度周りにいる生徒から決めてもらうということで」
「いいわよ。同じ勝負は二度しないということにして、早速始めましょうか」
「ええ。では皆さん。何か勝負の案をくださいな」
 周りの学生達は互いに顔を見合せながら様々な競技などを次々に口に出しては切り捨てている。10分くらい経っただろうか、女性と一人が代表で前に出てきて言った。
「じゃあ、シンプルにお料理対決ということで」
「料理!?」
 私は戦慄した。別に私は料理を作れないわけではないが、サバイバル生活の中での料理しか作ったことがないのである。審査員は学園生徒になるだろうから、どんな評価になるかわからないのである。
そして、私のそんな表情を見てとったのか、シンシアは「あら? 貴女料理を作ることが出来ないの?」と皮肉げにこちらを見てきた。
「私は作れるが、そちらの料理を食した人が倒れてしまうのが申し訳ないと思っただけよ」
 かっとなった頭で、適当に言った言葉だったが、何故かシンシアは酷く狼狽した。その様子を見て私はピンときた。実はシンシアは料理が作れないのではないかと。先ほどの言葉も皮肉ではなく安堵の言葉だったのではないかと思った。
「じゃあ、料理の種類については自由でいいわね?」
「え、ええ。よろしくてよ」
「それでは、開始です」
 審判の開始宣言と同時に、私は食材を狩りに学園の外に飛び出した。私はシンシアが料理を作れないのではないかと知り、安堵し浮かれていたのであろう。その結果……。
「それでは、今から審査に入りたいと思います」
 審査員三名の目の前には私の作った兎の香草焼き(一羽丸ごと丸焼き)とシンシアの作った謎のスープがあった。私の香草焼きは、食べれば美味しかった筈なのだが、年頃の少女は目の前に鎮座する兎の姿に食欲をなくし、結果0点となった。シンシアのも0点だったため、第一試合は引き分けとなった。
「……ところで、一回戦が引き分けになってしまいましたが、これだとこの後1勝1敗になったら引き分けになってしまいませんか?」
「残りニ試合とも私が勝つから問題ないわ。そっちは自信がないの? まさか一回勝負じゃなくても文句を言われるなんてね」
「なっ! ベ、別に私は構いませんでしたが……まぁいいですわ。確かに残り二試合とも私が勝つのですから、そんな心配は無用でしたね」
「ふ、その余裕がいつまで続くかしらね?」
「な――!」
 私はシンシアの言葉を聞き流しながらその場を後にした。第一試合は奇しくも引き分けになってしまったが、残る二試合を勝ち続けるだけである。


 私の戦いはまだ始まったばかりである。

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