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アバター・ソロモンSS

Last-modified: 2009-06-14 (日) 08:34:04 (3837d)

SS本文

かつて霧の湖には一人の悪魔が巣食っていた。その悪魔の名はアバター・ソロモン。自身を『ソロモンの化身』と称し、大小様々な力を行使し、霧の湖周辺にいる妖怪どもを駆逐しそこら一帯を自らの縄張りにしたのである。だが、ある時その悪魔の今後を急変させる事件が起きた。それは紅魔館が幻想郷に現れたことである。


 その日もアバターは自身の縄張りに妖怪などが紛れ込んでいないか見回っていた。妖怪などがいれば愛銃である「ハルマスの瞳」――魔術付与された狙撃銃で即座に撃ち抜いている。とはいえ別に殺しているわけではない。ただ、ここが誰の縄張りで迂闊に侵入したらどうなるかさえ理解してもらえればそれでいい。本日は特にそういった妖怪もいなかったので根城に戻ろうと思ったら湖を超えた先に見慣れぬ洋館があるころに気付いた。
「……先日まであんなところに洋館なんてあったかしら? セファー? どう思う?」
 アバターは誰もいない場所でそうつぶやく。だが、それに対しすぐさま答えが来る。
「ありませんでしたね。ラプラスによればつい今しがた現れたようですが」
 それを答えたのはアバターの着ているゴスロリ調の服である。どういう原理かはわからないが服が声を発している。というのもこの服はただのゴスロリ服ではなく、とある魔導書を服の形にしているのである。
「それで? どうするんですかアバター?」
「決まってるわ。縄張りに足を踏み入れたのならば情け容赦なく叩き潰す。それだけよ」
 セファーの問いに対しアバターは即答する。そしてそのまま帰路を変更し突如現れた謎の洋館――紅魔館へと向かっていったのだった。


突然現れたにせよこれだけの大きさの洋館である。さぞや大量の敵と戦うのかと思い進んだアバターだったが、門には人がいない。とはいえ門番用の宿舎らしきものが見えたから本気で人がいないわけではないだろう。さらに、廊下を延々と歩けど何とも出くわさない。この屋敷が実は無人か? とは考えたものの、辺りに意識も向ければ別のところに数多くの気配が感じられる。ともなれば……
「誘導されている……ということかしら?」
「とはいえこのまま進めば屋敷の主と対面出来る筈ですよ? どうしますか?」
「そのまま行くわ。どうせ主を倒したら他も倒れるでしょ。この重苦しい感じ、相手は吸血鬼みたいだし」
「わかりました。では頑張ってくださいね。そこの扉です」
 アバターは扉をあける。そこには幼い容姿の子供が一人立っていた。だが、その容姿には似合わぬほどの畏怖、凶器、そしてカリスマがあった。
「貴女がここの主ね。悪いけどここは私の縄張りなの。出て行ってくれるかしら?」
 アバターはその少女――吸血鬼に対し本題を述べる。それに対して吸血鬼は振り向き
「大丈夫よ。今日からここは私の縄張りになるから。このレミリア・スカーレットが畏怖をもってこの一帯を支配してあげるわ。その為に今日あなたを呼んだのだから」
「そう。やはり恣意的なものだったのね。門番がいなかったのも、道中で誰とも出会わなかったのも、五体満足な私を倒すことでここの支配権をそのまま奪うつもりなのね!」
 アバターの言葉を聞きレミリアが笑う。
「そうよ。私は面倒なのは嫌いなのよ。だから先んじて手を打たせてもらった。感謝してるわよ。アバター」
「いいわ。ならばその企みごと全て、私が粉砕してあげるわ!」
 二人は空を見る。そこに浮かぶのは深紅の満月。悪魔である二人が最も力を発揮できる時。
「こんなにも月が紅いから――――」
「「楽しい夜になりそうね」」
 二人の言葉が重なった時にはすでに周囲は溢れんばかりの弾幕の応酬が繰り広げられていた。
「いくわよ。私を楽しませなさい。天罰『スターオブダビデ』」
六芒星の陣から放たれる帯びたたしいほどの妖気の帯がアバターを襲う。さらにそこに追撃するかのように大小様々な弾幕がアバターを襲う。
「くっ! 開幕からこの勢いっ! 恐らくこの程度ならガス欠しないという意味でしょうけどっ!!」
「どうしたの? まさかこの程度で倒れるとは言わないわよね。もしそうだったらこの退屈の分だけ……殺してあげるわ」
 レミリアの瞳に紅い狂気が浮かぶ。その様子を見てアバターは吸血鬼が妖怪からも畏怖される圧倒的なカリスマを持つという訳を理解できた。
「しかたないわ。セファー! 代演降魔は完了してるかしら?」
「とりあえずは必須所のフルカス、バティン、アンドラスはすでに降魔しております」
「わかったわ。来たれバティン。30の軍団を従える公爵よ。我に異相跳躍の術を与えよ!」
 アバターは空間を跳躍し迫りくる弾幕を潜り抜けレミリアに肉薄する。ただし、接近したことが失敗だと悟ったのはレミリアの手にすでに別のスペルカードが構えられているのに気づいた時だった。
「紅符『スカーレットシュート』」
 至近距離で放たれた紅弾はその余波で周囲の調度品を粉砕させながらアバターを対岸の壁面に叩きつけた。
「がはっ! くっ! とんでもない威力を持っているわね」
「あら? まだ体が残ってるんだ? てっきり今のでばらばらになったかと思ったけれど意外と頑丈なのね。貴女には門番をやってもらおうかしら?」
「何とかしなければ……。第一向こうは不死身の吸血鬼なのにこっちが一方的に攻撃を受けてれば状況は不利にしか傾かないわ。ここはひとつ、奇策でもいいから流れを変える必要があるわね。セファー。何かいい案はあるかしら?」
「ではここはひとつ――」
「なるほどね。やってみる価値はありそうね。それで行くわ。来たれアンドラス。偉大なる侯爵よ。あらゆるものの核を破壊する力我に与えよ!」
「相談事は終わったかしら? それじゃあ次行くわよ? 獄符『千本の針の山』」
 レミリアの周囲の紅い魔力が幾千もの針弾となり四方八方に展開される。その針は一本一本が致死性の威力を保有している。通常の人物ならばこれを防ぐすべなどはない。故に、
「今度はどのような方法で防ぐのかしら? それともここで終わるのかしら? さあ、もっともっと私を楽しませなさい!!」
「じゃあその望みを叶えてあげるわ。消費が激しいからこの一回だけ……砕け!!」
 アンドラスの権能、絶対破壊の力で『千本の針の山』……そのスペルごと破壊する。そして破壊と同時にアバターはレミリアに向かって跳躍する。
「来たれフルカス! 20の軍団を従える騎士よ! 眼前を塞ぐ大軍を薙ぐ剣を我に捧げよ!! 『憑依 フルカス』!!」
 アバターはその手に2メートルを超す大剣を手にする。その姿に危機を感じたのかレミリアはその身を数百の蝙蝠に変え避けようとする。しかし、
「はぁっ!!


 アバターの放った一閃は数百の蝙蝠を全て巻き込み、レミリアを弾き飛ばす。
「くぅ。流石に中々やるわね。しかし、今のはどういうタネかしら?」
 フルカスの一閃を分散させた身全てで受けたにもかかわらず余裕の表情でレミリアは問いかける。だがそこに苦悶の表情が浮かんだのをアバターは決して見落とさなかった。
(畳み掛けるとしたら今ね。セファー。ラプラスの深度を最終まで上げといてくれるかしら?)
 アバターは思考通信用の魔術でセファーに連絡を取る。セファーから了承の意が届くと同時にアバターの見える世界が変貌する。世界に存在するあらゆるものの位置、運動量が視える。把握できる。それはすなわち未来がまるで過去の映像のように見えるということである。それは未来予知ではなく未来を把握することである。
「フルカスの持つ権能は一騎当千。その一撃はたかだか数百の存在なら逃さずに薙ぎ打つことができるわ」
「そういうことだったのね。それにしてもようやくチェックがかかったわね」
「? どういう意味ですか?」
「それは自分で理解しなさい。さて、そろそろ遊びは終わりよ『レッドマジック』」
 室内全ての紅い魔力が不規則なテンポで紅い弾幕となりアバターを襲う。しかし、ラプラスデーモンを完全起動しているアバターにとってはどのような弾幕も詰める意図がない限り詰まらない。意図があったとしても必要最低限の破壊をするだけである。現状も紅い魔力が波打つその動作だけで次はどこに弾幕が生成されるのかが視えている。だが、一瞬アバターの視界がぶれた。
「なに? 今、ラプラスデーモンがぶれた? セファー。状況報告を」
「こ、これは!? 異相力場変換でラプラスデーモンにノイズが!? この力はまさか!?」
「そう……。運命操作能力よ。その能力は確かに優秀だけど致命的な欠陥を孕んでいる。私の運命操作で事象を一つでも変化させた瞬間に既存の未来は間違いになる。そして何より、その能力はシステム本体への改竄に酷く弱い」
 そこには深紅の魔力を圧縮して練った神槍を構えているレミリアがいた。さらにアバターの周囲には紅い弾幕が逃げ場を塞ぐように漂っている。
「まさか……? 最初からこの展開を?」
「流石にそれはないわね。でも、先んじて手を打たせてもらったのは事実ね。何よりも面倒な貴女の能力を使わせないようにするために思考誘導するのは意外に面倒だったんだから……。神槍『スピア・ザ・グングニル』」
 アバターがレミリアの言葉を理解するよりも早く、必殺の神槍がアバターを貫いた。


「どうやら決着がついたようね」
「あれ? パチェ来たんだ?」
 気がついたアバターの前には小柄なピンク色のパジャマのようなものを着ている少女が立っていた。
「あれだけ大きな音を立てる戦闘が終わったのなら気になるじゃない? それにレミィが負けた場合のこともあるし」
「私が負ける? パチェも面白い冗談を言うわね。でもまぁ確かに私を負かすようなものには興味はあるけど今のところは視えないわね」
「……魔術師?」
 アバターの口から洩れたつぶやきにパチェと呼ばれた少女とレミリアがアバターの方を向く。
「あら? レミィ貴女手加減したの? 見るからにまだ動けそうだけれど。後、私はパチュリー・ノーレッジ。魔術師じゃなくて魔女よ」
「そんなことはなかったんだけどね。やっぱりずいぶんと頑丈ね。これをそのまま門番に使おうと思うけれどパチェはどう思う?」
「私は別に構わないと思うわよ? 個人的には司書がほしかったけれど、それは後で小悪魔でも召喚することにするわ」
「じゃあ、それで構わないわね。アバター・ソロモン。貴女は今日からこの紅魔館の門番として働いてもらうわ。当然だけど敗者に拒否権なんてない。わかった?」
 レミリアの言葉は不条理だったがアバターはその言葉にとても魅力的なものを感じた。恐らくこれが、吸血鬼が持つ圧倒的なカリスマのなせる技なのだろう。それに敗北したのも事実。それならば新たなる主のもとで新たな生活を楽しむのもありだろうとアバターは思った。
「わかりました。レミリア様。パチュリー様。不肖このアバター・ソロモン。この命尽きるまでお二方に永遠の忠誠を誓わせていただきます」


 こうして、かつて湖一帯を縄張りにしていた悪魔は湖の畔にある洋館の門番(下っ端)となった。この後、この屋敷を発端とした異変や、ほかの門番との諍いなど様々な出来事が起きるがそれはまた別のお話。

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