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上水流 廻SS

Last-modified: 2009-06-14 (日) 12:54:28 (3834d)

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 霧の湖の畔に建つ深紅の洋館。悪魔が棲むと言われる紅魔館では今日も今日とて様々な問題と事件が起きていた。


「死ぬわ。このままじゃ遅かれ早かれ私たちは死んでしまうわ。まぁ私は妖精だから死んでもしばらくしたら復帰するけど」
 紅魔館メイド隊洗濯部隊長メルティ・アムネジアは頭を悩ましていた。主に目の前に積まれている大量の洗濯物を見て。
「隊長! どうするんですか!?」
「隊長! 正直手洗いでこれらすべてを洗い切れる気がしません!!」
「わかってるわよ! はぁ。正直こんなのどうしろって言うのよ……。かと言って手作業でこの量をやれば間違いなく死人が出るだろうし、なんだってこんなにも量が多いのよ!!」
 他の洗濯部員の話を半ば聞き流しながらメルティは頭を抱える。実は大量にある理由はわかっている。ついこの間までとある異変により幻想郷から春がなくなっていたため一部洗濯部員が「寒いから働きたくありません!」などとふざけたことをほざきながらボイコットをしていたのである。異変も解決し、ようやく春が戻ったかと思えばもう梅雨も間近。この機に洗濯物を洗い終えなければそれはもうひどい目にあう。少なくともメイド長に大目玉を食わされるだろう。
 だが、だがしかしである。おおよそ二月分の洗濯物が目の前に鎮座している状況を前にすれば何かいろいろと諦めたくなる。
「……と、言う訳で私はいろいろ諦めたわ。何かいい案ないかしら? なければそのまま全員死ぬ気で手作業ね。その後私は死んで一回休み」
「た、隊長!? 自暴自棄はやめてください!! え、ええと……そうです! メイド長にお頼みになられるのは? メイド長は掃除に洗濯何でもできると聞き及んでいますが?」
「今ちょっと振り返ってみたけど、そんな記述あったかしら? まぁともかくメイド長は私たち(現在除く!)と違ってとても忙しいのよ。それする場合だと私たちでメイド長の仕事を手伝うことが前提になるわよ? できるの?」
 洗濯部員たちは互いに顔を見合わせてしばし考えて「無理です!!」と元気よく返事をしてくれた。別にそんな返事がほしかったわけじゃないんだけどね。死にたい。まぁ後で死にそうだけど。
「そんなわけで必要なのは他の案。なければ仕事。そもそもこの紅魔館の全員の服を洗うだけでも十分な手間なのに『寒いからやだぁ〜?』とか寝言ほざいてボイコットしたやつがいたから問題なんでしょうが! 丁寧に私が死んでるときにしやがって」
「隊長! 抑えて! 抑えてください〜!! じゃ、じゃあ別の案です! 手作業に代わる何かもっと効率のいい方法を模索してみるというのは!? 現状問題なのはこの量が手作業するには膨大なのと、それに伴う作業員のダウンが予測されているということなので!!」
 洗濯部員の意見を聞き、メルティはなるほどと思った。思ったが……、
「で、肝心の案は?」
「……え、え〜と」
「ないのね?」
「……ありません」
「まぁ、案としてはいいわね。問題はその方法とかが全く考えられてないことだけれど……何かいい案はないかしら? 片っ端から適当でいいから言ってみなさい」
 洗濯部員から矢継ぎ早に繰り出される本当に役に立たん適当な案を聞き流しながらメルティは周囲を見渡しながら考える。
「くるくる〜。くるくる〜」
 視界に映るのは中庭でクルクルと回っている妖精メイドが一人。確か清掃メイドの一人だったかしら?どうも自分の隊にいないメイドのことは覚えにくい。そもそも紅魔館は妹様の余波とか様々な事情でメイドがいなくなりやすいからとか何とかでメイド総数が多いのだ。まぁそれが現状の問題をより強くしているわけだが……、
「う〜ん。もう少し優雅な感じ? にしたいですね〜。紅さんの『芳華絢爛』は私の目指すイメージと少し違いますから……『極彩颱風』みたいな感じで行きましょう〜」
 妖精メイドはクルクルと回転しながら弾幕を張る。その弾幕はメルティから見ても威力、密度ともに申し分ないように見えた。恐らく妖精の方でも強い部類に入るのだろう。
「まぁ、私には敵わないだろうけれどね。って今はそんなこと考えてる暇はないんだったわ。とはいってもさっきからろくな案があがってこないし」
 メルティは心の中で『無理かしら?』と思いながら先ほどの妖精メイドの方を見る。
「くるくる〜。くるくる〜」
 弾幕を張るのが飽きたのか、妖精メイドはただクルクルと回っているだけだった。
(……回転ねぇ。中か外に芯となるものを入れて衣類を突っ込んで回してみる? 確かに勢いとかあれば汚れとかは落ちそうだけれど……、問題はそんな風に回転させる労力を考えたら大した利益はないわね)
「はぁ、これは本気で死亡コースかしら?」
 メルティが半ば諦めて、死を覚悟しながら洗濯物に手を出そうとした時、洗濯部員の(まだ続いてた)適当な案が聞こえてきた。
「ここまで来ても良案が出ないとなると……、もはや人を入れる(他から呼ぶ的な意味で)しか!!」
「人を……入れる(物理的な意味で)!? それよっ!」
 突然のメルティの叫びに洗濯部員一同は驚いた顔をメルティを見たが、メルティは気にも留めずにクルクル回ってる妖精メイドのもとに赴く。
「そこのあなた! 所属と名前は!?」
「えっ? 私は清掃部員見習いの上水流廻(かみずる まわる)ですけど?」
突然声を掛けられたため廻は頭に疑問符を浮かべながら返答する。だが、その解答はメルティにとっては好都合だった。
「見習いってことはまだ正規の部員ではないのね。上水流といったわね。貴女を洗濯部員の一員の任命するわ! 給金はメイド長と同額よ!」
「えっ? えっ? と、突然のスカウトにも驚きますが、メイド長ってあのメイド長ですか〜!?」
 廻の驚きようを見てメルティはほくそ笑む。ちなみにメイド長である咲夜は給金をもらってない(妖々夢キャラ設定より)。まぁ妖精が給金をもらってるかどうかは非常に怪しいものだがそこは気にせずメルティは廻の返答を待つ。
「まぁ私は衣食住が確保できればそれでいいんですけどね〜。それに頼られているようなので是非頑張らせていただきますよ〜」
「そう? じゃあよろしくね。私の名はメルティ・アムネジア。紅魔館メイド隊洗濯部隊長よ」
「はい〜。隊長さんよろしくお願いしますですよ〜」
 メルティの言葉に廻はぺこりと礼をする。メルティは早速洗濯部員の一員におっきなドラム缶を用意させそこに水をなみなみと入れる。そして、洗濯物をどこどこと放り込む。
「じゃあ早速だけど上水流」
「はい〜? なんですか〜?」
「こんなかに入って」
「はい?」
 廻は理解できないといった感じの目でメルティを見る。だが、メルティも冗談で言ってるわけではないので他の隊員に命令して廻をドラム缶の中に放り込む。
「ぷはぁ! い、いきなり何をするんですか〜?」
「隊長。正直私たちも隊長が何を考えているのかいまいちわかりかねているのですが?」
 隊員たちの疑惑の視線を受けながらもメルティは堂々と言い放つ。
「この中で上水流に回転してもらう。このドラム缶の内側には様々な出っ張りを付けており、上水流が回転し渦を起こすことにより、出っ張りにもまれた衣類からは汚れが落ちる……はずだ。
 まぁ最初の失敗なんぞ気にも留めんからさっさとやれ。私はその間にパチュリー様の処に言って意見をもらってくる。くれぐれもさぼらせるなよ?」
「え、え〜と、私の人(?)権は?」
「そんなもん紅魔館に来た時点でない。隊長の言うことは原則絶対だぞ?」
「きゃぁぁあぁぁ〜〜」
 ドラム缶の中でごうんごうんと音がしながら内部で衣類にもみくちゃにされながら廻が回っている。この一回目は結局それらしい成果は上げられなかったが、その後パチュリーが作ったマジックアイテムの使用や、理論の新設。ドラム缶の改良などを繰り返すことによって、ものの見事に効率のいい洗濯用機構――略して洗濯機が紅魔館に完成したのである。
Fin.

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